2018年4月16日

名入れ職人栗山さん

20180416b.jpg


トラベラーズノートのオーダー名入れで
いつもお世話になっている栗山さんに
トラベラーズファクトリーに来ていただき、
名入れ実演のイベントを行った。

栗山さんの名入れは、活版印刷のように
活字を組み合わせ、昔ながらの手押しの箔押し機で
名入れをしている。
レーザー名入れより、手間や技術が必要だけど、
しっかりと深く文字が刻印され、独特の味がある
のが特徴。
栗山さんは、この名入れの仕事を35年以上に
渡って続けている。

普段は申し込みから3週間くらいかかる名入れが
イベントではその日に持ち帰ることができて、
さらに栗山さんが活字の文字を組むところから
名入れをするまでを間近で見ることができる。
自分で考えて組み合わせた文字やマークが、
綺麗に押されたトラベラーズノートを手にすると
皆さん笑顔で「大事に使います」と言ってくれて、
その場にいる僕らも幸せな気持ちになった。
イベントの2日間では、そんな笑顔をたくさん
見ることができた。

実は、70歳を過ぎて仕事をセーブしている中で、
栗山さんには今回のイベントは無理を言って
お願いして、実現することができた。
イベント後の打ち上げでは栗山さんからも
楽しかったという声を聞くことができて、
僕らもいいイベントだったなと思うことができた。

栗山さんは、多彩な趣味人でもあり、
独学で絵を描いたりしている。
鉛筆で仏像や人物が細密に描かれたその絵は、
素人離れした素晴らしいもので、イベント期間中は、
それらの絵をお借りして会場に並べさせてもらった。

栗山さんは、仕事に誇りと自信を持ちながらも
決して尊大にならず、年齢が離れた僕たちとも
気さくに話をしてくれるし、お客様に喜んでもらい
たいという気持ちに溢れている。
だけど、自分がやりたいと思う仕事しかやらない。
自分のペースを守りながらも、引き受けた仕事は
期待以上にやり遂げる。

70歳を過ぎても、仕事をしながら
絵を描くことから、ランニングをしたり、
俳句を書いたり、好きなことに没頭する時間を
持っている。
独学で学んだという絵は、とても素晴らしいのに、
美大を出ているハシモトに、基礎を教えて欲しいと
言って、謙遜しながら学びたいという気持ちを
伝えてくれる。

最近、仕事の合間に公園に行って、
子供向けの遊具で運動をしているんだと、
iPhoneで撮った動画を見せてくれた。
「けっこう難しいんだよ。この歳になったら
ジムなんていかなくても、公園で十分なんだ」
と言いながら公園のアスレチックに本気で
挑んでいる姿を見ると、失礼だけどなんだか
少年のようで素敵だなと思った。

栗山さんは散歩が好きで、東京中の街や公園を
歩き回っている。トラベラーズノートの画用紙
リフィルをプレゼントしたら、これで散歩の途中に
スケッチしてみると言ってくれた。

イベント中は、たくさんの女性が手土産を持って
会いにきて、栗山さんと楽しそうに話していた。
70歳過ぎてもモテモテだ。
明るくてお話し好きで、人懐っこく茶目っ気もあり、
おしゃれでダンディー、女性もお酒も大好き。

仕事も趣味も人付き合いもマイペース。
長い人生経験を経て、お金をかけなくても
自分で楽しみを作り出す方法をたくさん知っている。

僕はもうすぐ49歳を迎えるけど、
歳をとったら、あんな風になりたいな。

栗山さんが心をこめて名入れをしてくれる、
トラベラーズノートのオーダー名入れは、
トラベラーズファクトリー オンラインショップ
はじめ、中目黒やステーション店頭でも随時
受け付けてします。ぜひ。


20180416c.jpg

20180417d.jpg

20180416a.jpg

2018年4月 9日

TRAVELER'S VILLAGE

20180409b.jpg


トラベラーズの仲間の一人が、
休みをとって直島を旅をしていると、
メールを送ってくれた。

瀬戸内海に朝日が昇る写真に、美術館やホテルが
素晴らしいと伝えるそのメールを読んでいると、
自分まだ行ったことがないこの島を旅したくなった。

近年、アートの島となることで、多くの人たちが
足を運ぶという直島のことを調べてみたら、
トラベラーズの島があったらどんなだろうと、
想像してみたくなった。

場所はどこか南の小さな島。
海が綺麗で気候が温暖なところがいいな。
その島の一角にトラベラーズヴィレッジがある。
その中心には工房トラベラーズファクトリーがあり、
タイから届いた革を使ってトラベラーズノートを
作るのをはじめ、様々なプロダクトが作られている。
年代物の活版印刷機や払い下げのミシンなど
新しい機械はないけれど、それゆえに大量生産
とは違う、人の手の温もりが感じられるモノが
作られている。

小さな工房がその周りにいくつかあり、
寄木職人や鉄工職人、カバン職人などがそこで
ものづくりをしている。
もちろん、それらは作り手と話をしながら購入する
こともできる。

トラベラーズファクトリーの中には、
カスタマイズルームというスペースがある。
ここでは、たくさんの種類のスタンプをはじめ、
名入れ刻印やシルクプリント、ペイント、断裁、
製本などの機械に、ビーズやリング、チャームなどの
パーツ、さらにそれらを加工する道具が揃っていて、
訪れた人たちは、ノートをはじめ旅の道具の
カスタマイズをすることができる。

小さな灯台がある海岸沿いには、
かつて小学校の分校だった建物をリノベーションして
作られた宿泊施設、トラベラーズホテルがある。
わずか5部屋の小さなホテルだけど、
教室を改造して作られた部屋は、ゆったりした広さで
長い年月の間丁寧に磨かれ続けたことで美しく黒光り
する木の床に、味のある革のソファやオーク材の
しっかりしたテーブルなどが置かれたインテリアは、
上質なのに懐かしい心地よさを感じる。
トラベラーズらしい遊び心のあるアメニティに
真空管アンプを使ったオーディオセットが
各部屋にあるのもいい。

食事は、近くにあるトラベラーズレストランで
新鮮な素材を使って丁寧に作られた素朴だけど
上質な料理がいただける。
ホテルの裏には小さな農園トラベラーズファーム
があるので、野菜はそこで採れたものを使う。
朝は、ホテル内にあるトラベラーズカフェで
焼きたてのトラベラーズブレッドに焙煎したての
コーヒーが美味しい。

安く泊まりたければ、その隣に
ドミトリータイプのトラベラーズゲストハウスや
トラベラーズキャンプサイトもある。
キャンプ場では、定期的にキャンプファイヤーが
焚かれていて、旅人だけでなく地元の人も
そこでコーヒーやお酒を飲みながら、語らい
のんびりと火を眺めている。

雨の日だったら、トラベラーズライブラリーで
ゆっくり本を読むのもおすすめ。
トラベラーズがセレクトした本に加え、
ここを訪れた旅人たちが持ち込んだり、
寄贈された本で成り立つライブラリーで
レコードのコレクションも充実している。
本やレコードは、宿泊者は自由に部屋に持ち込み
読んだり、聴いたりすることができる。

トラベラーズライブラリーでは小さいながらも
本やリトルプレスの出版も行なっていて、
トラベラーズタイムズやトラベラーズプレスなどの
発行とあわせて、ゆかりのある作家やユーザー出身の
エッセイストなどの本も出版している。

ライブラリーに加え、ぜひ訪れたいのが、
トラベラーズミュージアムだ。
ここでは、旅をテーマにしたアート作品に
トラベラーズにゆかりのある画家やアーティストの
作品が並ぶアートコーナー、
トラベラーズカンパニーが今までリリースした
プロダクトのアーカイブをはじめ、
仲間たちによるものや影響を受けたプロダクトが
並ぶプロダクトコーナー、
そして、トラベラーズノートユーザーによるノート
の紙面やカスタマイズされたノート、さらに写真や
テキストなどが並ぶユーザーズギャラリーの
3つのコーナーがある。
ユーザーズギャラリーでは、今は人気のアーティスト
になっている方のアマチュア時代のノートも
あったりして楽しい。

また、ミュージアムには、イベントスペースがあり、
ノートバイキングやワークショップ、ライブ、
映画上映などのイベントが不定期で開催されている。

トラベラーズヴィレッジが最も賑わうのは、
やはり夏に2日間にかけて開催される
トラベラーズサマーフェスティバルだ。
いつもは静かな広場に、ステージが組まれ、
ミュージックフェスティバルが開催される。
さらに、イベントにあわせてフードコーナーや
ショッピングコーナーも充実する。
この日にあわせて、ノートバイキングや
コーヒー教室、ユーザーイベントなどのさまざな
イベントが開催される。
この時は、ホテルやゲストハウスはいっぱいで、
ビーチや森に設置されたたくさんのハンモックで
夜を過ごす人も多い。

また夏には、トラベラーズスクールという
学校がオープンする。
ここでは、子供達のサマーキャンプのような学校や
就職を控えた学生、長期休暇を得ることができた
大人たちが作ることや表現することなどを体験
しながら学ぶことができるらしい。

そして、冬のある時期、トラベラーズヴィレッジは
2ヶ月間閉鎖される。
この間すべてのスタッフは、自由に旅をしたり、
何かを勉強したりすることができる......。

妄想は果てしなく広がっていくけど、
やりすぎて大規模になってしまうのも違うし、
長くなったのでこの辺で終わりにするけど、
まあでもこんな場所があったら僕も働きたいな。


20180409a.jpg

2018年4月 2日

桜が咲いて、ノートが旅立った

20180401b.jpg


トラベラーズノート ブルー発売の前日の夜、
中目黒駅を降りると、駅構内は人で溢れかえっていた。
目黒川の桜は、例年よりかなり早く満開を迎え、
たくさんの花見客が足を運んでいた。

今年はまだ目黒川の桜を見てなかったから、
僕らも人混みの中をかき分けて桜を見に行った。
中目黒は年に一度のお祭りみたいにごった返し、
みんな笑顔で楽しそうに歩いていた。
そしてトラベラーズファクトリーへ向かうと、
翌日の発売に向けて、商品を並べた。

トラベラーズファクトリーでは、ブルーの発売と
あわせて、レザージッパーケースや
ペーパークロスジッパーケース、さらに
キャンバスバッグなどにブルーも発売。
さながらブルー祭のようなコーナーになった。

中目黒での陳列を終えると、次は東京駅へ。
花見帰りの人たちでいっぱいのホームから
電車に乗って、なんとか閉店の22時前に
トラベラーズファクトリーステーションに着いた。

今度は、東京駅で新しい商品を並べるのを手伝う。
天井が高くて、ゆったりした雰囲気の中目黒に
キオスクのようにコンパクトな空間にぎっしりと
商品が並ぶステーション。
両方をハシゴをすると、その違いが際立って
分かり面白い。
陳列が終わったのは終電間際だった。
何ヶ月もかけて準備してきた新しい
トラベラーズノートやスパイラルリングノート
たちが店頭に並ぶと、無事にこの日を迎えられた
ことに安堵するとともに、感慨深い気持ちになった。

そして発売日はトラベラーズファクトリーへ行き、
お客さんとお話しをしながら迎えた。
この日はまさにお祭りみたいにたくさんの方が
足を運んでくれて、笑顔で新しいノートを手にする
姿を見ることができたのは、なによりも嬉しかった。

様々な仕事が専門的になり分業化していく時代で、
モノを企画し、作ることから、サイトで伝え、
店頭に並べて、お客さんと話をしながら手渡す
ところまで携われることの喜びを実感する。
きっとそれこそ、トラベラーズがこれからも
大切にしていなくてはならないことのひとつだ
ということにあらためて気付かされた。

途中、ファクトリーを抜けて、再び目黒川に
桜を見に行った。
桜はもう散り始めていて、風が吹くとまさに
桜吹雪のように花びらが舞っていた。
空を見上げると、青い空と桜並木、そして空に舞う
花びらが美しいコントラストを描いた。
川にはたくさんの花びらが流れ、うっすらと
ピンクに染まる吹き溜まりを作っていた。
圧倒的な華やかと、散り際の潔さ、そこに漂う
はかなさと哀しみ。やっぱり桜はいいな。
そういえば、満開の桜とトラベラーズノートの
新しい商品の発売が重なったのは、12年で
はじめてのことかもしれない。
この日、桜の花びらが空に舞うように、
たくさんのノートが旅立っていった。

4月になった。
桜はこれから青い葉に覆われて、
来年の花を咲かせるためのエネルギーを蓄えていく。
僕らもまた、トラベラーズノート ブルーとともに
新しい青の時代への旅をはじめよう。


20180402c.jpg

20180402d.jpg

20180402a.jpg

2018年3月26日

認めらることがないまま創作を続けた素晴らしきアーティストたち

20180326b.jpg


アメリカが生んだ最高の女性詩人と言われている
エミリー・ディキンソンは、生前わずか10篇の詩が
発表されただけで全く無名のまま亡くなった。
外の世界とほとんど交流を持たないまま生涯を
生家で過ごし、ずっと独身を通した。

死後、妹がエミリーの整理ダンスの中から
大量の詩稿を発見。それらが出版されると、
時が経つにつれて世界的な評価を獲得していった。

生前、自ら批評家に詩を送ったこともあったが
認められず、自分の詩を出版することを諦めた。
それでも隠遁者のような生活のなかで詩作を続け、
1775篇の作品を残した。


歓喜とは出て行くこと
大地の魂が大海へと、
家々を通り過ぎー岬を通り過ぎー
永遠の中へと深くー

私たちのように山々に囲まれて育ったなら、
船乗りにも分かるでしょうか、
陸地から一海里沖に出た時の
この世ならぬ恍惚が?


この詩は、山々に囲まれた田舎の家にこもりながら、
書かれていたからこそ、
喉の渇きのなかで想像する水のように、
外の世界へ旅立つことの歓喜をより深く伝えてくれる。

アメリカの作家、チャールズ・ブコウスキーは、
一度作家になるのを諦めてからも、働きながら
書くことを続け、49歳で「ブコウスキー・ノート」
を出版。
やっと長く勤めていた郵便局を辞めることができた。
彼の小説は、酒やギャンブルに溺れ、
自堕落な生活を送りながらも、精神的に自立し、
自分に正直に生き抜く姿勢が、力強く書かれている。
その文章は、弱いところや恥ずかしいことも隠さず
書かれていて、まるで生きていくために吐き出された
日記のようだ。

エミリー・ディキンソンやチャールズ・ブコウスキー
の作品には、売れるためとか、有名になるためとか
ではなく、純粋に自分の心を癒すために書かざるを
得なくて書かれた、生の声がある。

フランスの画家、アンリ・ルソーは、
パリで税関職員をしながら、日曜画家として
絵を描いていた。

素朴で幻想的なタッチのその絵は、展覧会に
出展し続けるもなかなか評価されなかったが、
それでも仕事をしながら描き続けていた。
その後、ピカソに発見されることをきっかけに
世に知られ、その高い完成度と芸術性が認められる
ようになったのは、晩年死の直前だった。
そういえば、ゴッボだって、生前に売れた絵は
1枚しかないと言われている。

これらの作者に共通してあるのは、
みんな専門的な一流の学校で基礎から
技術を学んではおらず、独学でその作品を
作り上げていること。
その分、一見粗野で素朴に見えるけど
オリジナルで純粋、生々しい迫力と既成概念を
覆すような力に溢れている。
まるでパンクロックみたいだな。

インスタなどで検索すると、
世界中のたくさんの方々によって描かれた
トラベラーズノートの紙面を見ることができる。
繊細なタッチの水彩画から、ページにびっしりと
小さな文字で書かれたダイアリー、
カリグラフィーで美しく書かれた言葉、
コラージュ、さらに、それらを縦横無尽に
ミックスし表現されたもの。
それらのほとんどは、何かの報酬のためにだったり、
広く世間に認められたいからでもなく、
今の自分、そして未来の自分ために描かれた
パーソナルなメッセージであり、生活のなかで
何かを表現せざるを得ないその人の心根から
溢れ出た無償の創造だ。

ノートに何かを書くことを生業にしていない僕らは、
わざわざ苦労をして書いたり、描いたりしなくても
生活することはできる。
だけど同時に、描かざるを得ないメッセージがあり、
描くことの喜びを知っている。
それが優れているかどうか、それが商売になるか、
そんなことを考えず、ただ自分たちが生きた証を
実直に書き続ける。

ノートを作ることを生業にしている僕は、
いつか誰かのトラベラーズノートに描かれた表現が
世界の人たちの心を響かせ、広く認めらるように
なったら嬉しいな、と心から思う。

今週3月29日、いよいよ青いトラベラーズノートや
新しいスパイラルリングノートが発売されます。
やがてそこに描かれていくであろう、
手にした人たちによる溢れ出る表現や
無限のメッセージのことを思うと胸が高まります。

最後にエミリー・ディキンソンの詩をもうひとつ。


これは世界にあてた私からの手紙です
私に一度も手紙をくれたことのない世界へのー
やさしい威厳とともに
自然が教えてくれたシンプルな便りですー

そのメッセージを送ります
会うことのできない人の手にー
自然への愛のためーやさしい同胞のみなさんー
温かな心で裁いてくださいー私を


20180326a.jpg

2018年3月19日

Traveler's Lonely Hearts Club Band

20180319c.jpg


わずか17枚限定で、アルバム、
トラベラーズ・ロンリーハーツクラブバンドが
リリースされた。
そのタイトルは、ビートルズのアルバム、
サージェントペパーズ・ロンリーハーツクラブバンド
のパロディなのかもしれないけど、
トラベラーズの世界を表すのにけっこうぴったりの
ネーミングだ。
日本語に訳すと、旅人の寂しんぼ集団楽団。
調べてみると、ロンリーハーツは恋人募集中
という意味もあるらしい。
セックス・ピストルズやブルーハーツと同じくらい
恥ずかしくて青臭いバンド名だ。

近所のミスタードーナツでマックブックに
向かいながら、このブログを書いている。
ここは、喫煙ルームがあって、
長時間いてもいやな顔をされないし、
コーヒーのおかわりもいただけるし、
ドーナツだって安くてまあまあ美味しい。

家で美味しいコーヒーを飲みながら、
書ければいいんだろうけど、
元来怠け者体質の僕は、家ではなかなか筆が
進まないから、ふと思い出したように、
トートバッグにマックブックとトラベラーズノートを
入れて自転車に乗ってやってくる。

17枚限定のこのアルバムは、今年の3月14日に
リリース。
リリースの2日前、「ホワイトデーどうします?」と
スタッフTが言ってきた。
2月14日には、トラベラーズの女性スタッフから
男性スタッフにお菓子をもらったから、
そのお返しをどうするのかの相談だ。
「とりあえずカードを作るからお菓子を頼むよ」
と伝え、あわせて男性スタッフに写真とメッセージを
メールするように依頼した。

どんなカードを作ろうかと考えてふと浮かんだのが
アルバムジャケットみたいなカードを作ろうという
ことだった。
そして、人がたくさん並んだサージェントペパーズの
アルバムを思い出した。
顔をスタッフの写真に差し替えて、タイトルを
トラベラーズ・ロンリーハーツクラブバンドにして
みようと思った。
フォトショップで画像加工をしているうちに
楽しくなって、スタッフだけでなく、庄野さんとか
こうださんなどお世話になっている方々の顔写真も
差し込んだ。

ここで書くのを休んで、ドーナツを食べる。
お気に入りはオールドファッション。
BGMにビーチ・ボーイズが流れてくる。
「ペット・サウンズ」がリリースされたのは、
「サージェントペパーズ」の1年前だ。

ホワイトデーの前日の夜、
紙に出力をして、ジャケットの形にしてみると
けっこうそれっぽくていい感じだ。
みんなのメッセージを印刷したカードをジャケット
の中に入れて完成だ。
トラベラーズの女性スタッフの人数分17枚作るのは
けっこう大変だったけど、出来上がったジャケットを
並べて眺めると、ほんとうに17枚限定でリリース
されるアルバムみたいで、満足した。
そして、締め切りに間に合ってほっとした。

ブログも書き終えることができたかな。
4本目のタバコに火をつけて、ゆっくり煙を吸った。
久しぶりにサージェントペパースを聴いてみようと
思ったけど、頭の中には、架空のバンド、
トラベラーズ・ロンリーハーツクラブバンドの
音が鳴っている。

We're Traveler's Lonely Hearts Club Band
We hope you will enjoy the show

でも、僕らにとってのサージェントペパーズが
できあがるのは、まだまだずっと先のことだな。


20180319d.jpg

2018年3月12日

ノートをもっともっと楽しくしたい

20180312b.jpg


そうか。
あれから7年なんだ。
先週のブログで、トラベラーズノートがこの3月で
12周年になると書いたけど、あの震災があったのは
ちょうど5周年記念のトラベラーズノートを発売する
直前のことだった。

2011年、トラベラーズノート5周年を記念して、
はじめて新色のキャメルを限定版としてリリース
することを決めた。
いよいよ出荷となるその直前に、あの震災がおきた。
東京も一時的に工場や物流の機能が止まってしまい、
発売を2週間延期することになった。

毎年3月に新しいプロダクトをリリースしているけど
いつもその時期が近くなるとちょっとした緊張感に
襲われるのは、新しいプロダクトが皆さんに
どのように受け入れられるかということだけでなく、
あの震災の記憶があるからなのかもしれない。

あの時は再発売を決めるにあたっても、
日本が危機的状況にあり自粛ムードに包まれた中、
5周年を記念したトラベラーズノートを出しても
良いのか悩んだし、
そもそものそんな時のノートの存在意義って
なんだろうと、深く考えさせられた。
結局考えた末に出た結論は、トラベラーズノートを
手にすることで、毎日の暮らしをより豊かで楽しい
ものにして欲しいという、僕らの活動の原点を
再確認することでしかなかった。

あの年は、初めての海外イベントをソウルと香港で
行い、さらに京都でイベントを行いながら、
10月にトラベラーズファクトリーをオープンした。
けっこう忙しい年だったけど、その源にあったのは
やっぱり震災時にあらためて考えさせられた
トラベラーズノートの原点だったし、
そのために僕らは活動を自粛するよりも、
ギアを一段上げていくことを選んだ。

7年という月日は、東北にとっては長いようで、
あっという間で、まだ解決できていない問題も
たくさんある。
僕らは復興に向けた特別なことは何も
できていないし、偉そうなことを言えないけど
考えはあの時と同じで、僕らの作るノートが
その日常にあり、それぞれの暮らしを少しでも
豊かで楽しいものにしていれば嬉しいです。


さて、スパイラルリングノートの仲間に新たに
水彩紙とカードファイル、フォトファイルが加わる。
まだ発売前に、いち早く製品サンプルを手にすること
ができるのは、作り手の特権。
使用テストのためということにして、
工場から届いたばかりの焼きたてのパンのような
新鮮なノートを手にして、どんな風に使ってみようか
と考えるのは自分たちにとっても楽しいことだ。

まずは、1月にスペインのバルセロナで見て感動した
サグラダ・ファミリアを描いてみた。

直線を排したグニャグニャした不思議な形の建物
だけど、絵を描こうとすると、そこに規則性を
見つけることができる。でも描いていると、
あっさりその規則性を破る不規則さもあったりして
いろいろな発見があるのが楽しい。

そうやってなんとか描きあげた絵は、
水彩紙の良さを活かしたとは言えないけど、
まあこれはこれで良しとする。

いつも使っているトラベラーズノートの
リフィル画用紙と比べると、水が染み込んでいく
のに少し時間がかかる。
僕にはそんなテクニックはないけれど、
水彩らしく色をにじませたり、他の色をたらして
グラデーションなどを描いたりもできそうだ。
絵具が染み込みにくいから、シミのようなムラにも
なりにくいし、絵具の裏抜けも少ない。
紙の良さを十分活かして描くような技術が僕には
ないけど、いろいろ試してみたいし、もっと自由に
頭に浮かんだイメージを描いてみたいな。

カードファイルは、名刺ファイルにもぴったり。
72枚の名刺が入る。
職種にもよるけど、多くの人は仕事をしていると、
名刺はどんどん増えていくと思う。
きっと2度と会わないであろう人に、
いつもやり取りしているから名刺の見返すことも
ない人
何年かに一度は整理しようとするのだけれど、
結局、大量の名刺に埋もれて諦めてしまって、
ごっそり無秩序に箱に入れておしまいとなる。
だけど今はメールや携帯でやり取りをしているから、
それでそれほど困ったりもしない。
そんな時、ふと頭に浮かんだアイデアに
心がときめいた。

そうだ、これからも一緒に仕事をしていきたいと
思っている人たちだけの名刺を入れたファイルに
しよう。
偉いとか、取引金額が多いとか、会社との関係性とか
そんなことは一切考えず、僕らがこれからも一緒に
何かをしていきたい好きな人達だけの名刺が詰まった
ファイルにしよう。用がなくても眺めているだけで
ワクワクする名刺ファイルになりそうだ。

やっぱり僕らにとって、ノートは何よりも
毎日を豊かで楽しくするものでありたいと思う。
これからも、それを大切にしてノートに向かい合って
いきたし、必要であればさらにギアを上げていく。


20180312a.jpg

2018年3月 5日

新しい青の時代

20180305b.jpg


新しいプロダクトの情報をアップする時は
いつもちょっとした緊張感に包まれる。
それが皆さんにどんな風に受け取られるのか、
不安と期待が入り混じった複雑な思いが頭を巡る。

僕らは先々まで綿密に計算された計画に
基づいて、ものづくりをするのは得意じゃない。
目指している場所は、抽象的でぼんやりした
イメージでしかないし、
そこまでの道筋も、悩んだり迷ったりしながら、
その瞬間の肌感覚や直感でやるべきことを
決めている。

その時に指針となるのは、
それがトラベラーズらしくて、
トラベラーズノートを使ってくれている方に
ワクワクしてもらえるのか、
さらに僕ら自身もワクワクできるのか、
ということで、
そんな方程式では割り出すことができない、
感覚的で感情的な指針は、方向の定まらない
コンパスの針のようにゆらゆら動いている。

2015年にブルーエディションを発売した時は、
また何年かして定番になるなんてことは想像も
していなかったし、
今回ブルーをリリースする経緯はここにも
書いたけど、ブルーがたくさんの方々に望まれ、
不当にその気持ちを逆なでされてしまう状況が
生まれる中で、なんとかしたいという想いで、
僕たちはブルーを定番にするという判断をした。
だけど、その決断に絶対的な自信なんてないし、
今だってそのことで誰かが失望していることへの
不安が消えていない。

そんな中で、リリースの反響として
聞こえてくるのは僕らにとって嬉しい言葉が多く、
さらに、こちらの複雑な想いに理解を示してくれる
声もあり、あらためてトラベラーズノートは、
素晴らしい使い手の方々に支えられていることを
知ることができました。
そして、そんな皆さんの想いこそが、
トラベラーズノートが醸し出す優しさや温かさを
作っているのだと、実感しました。
ありがとうございます。本当に嬉しかったです。
僕らはたくさんの勇気をもらいました。

赤は情熱とか、白は純真など、それぞれ色には、
その色が連想させるイメージや意味がある。
トラベラーズノートの革の色も使う人によって、
それぞれのイメージや意味があると思うし、
それを一つのイメージに固定する訳ではないけど、
僕にとって青がもたらすイメージは、
青春とか青二才などに使われる青くささ、
つまり未熟さであり、それゆえの純粋さだ。
そこに、ブルースの語源となった英語のブルーが
意味する憂いや哀しみ、孤独感が加わる。
そして、宇宙や海、空が感じさせてくれる、
限りない優しさと美しさ、無限に広がる自由。
なんだかパンクロックみたいじゃないか。

ブルースを胸に抱き、ギターをかき鳴らし、
絶望の先に灯された希望を歌うパンクロッカー。
そんな気分でブルーのトラベラーズノートを
使ってみたくなった。
しかも、再発売のブルーだから、
かつてアルバムを一枚だけリリースした後に
華々しく解散したのに、長いブランクを経て
再びデビューする古参のパンクロッカーだ。
なんだか強引なこじつけみたいだけど、
山田稔明さんのアルバムのタイトルにならって、
トラベラーズにとっての「新しい青の時代」が
これから始まる。そんな気分になった。

トラベラーズノートは、あたらしいブルーの
発売で、12周年を迎えます。
このちょっと変わったノートが12年も続き、
世界中に広がろうとしているのは、まさに、
使ってくれている皆様のおかげです。

さまざまな事情やしがらみをもっと大胆に
切り崩し、飛び越えていき、今まで以上に
トラベラーズらしく、トラベラーズノートを
使ってくれている方にもっとワクワクしてもらい、
さらに僕ら自身がワクワクできるような、
ノートにしていきたいと思いますので、
これからもよろしくお願いします。

そして新しいブルーのトラベラーズノートも
よろしくお願いします。


20180305a.jpg

2018年2月26日

ラジカセとカセットテープの親密な温かさを伴った音楽の記憶

20180226b.jpg


学生の頃、長い旅に出る時は、
いつもラジカセを持っていった。
ラジカセといっても安いモノラルの小さなもので、
音質も音量も普段使うには物足りなかったけど、
安宿で小さな音で流すにはちょうど良かった。

荷物は少なくしたいから、カセットテープは
120分や90分の長めのテープに録音したものを
4、5本だけ持って行く。出発前はいつもどれを
バックパックに入れるのかけっこう悩んだ。

友人と3人で行った初の海外旅行のインドでのこと。
朝日が昇るガンジス川を見ようと、河岸に座ると、
「ここでこの曲を聴きたかったんだ」と言いながら
友人の一人が持ってきたカセットテープを、
ラジカセにセットしスタートボタンを押した。
それはエレファントカシマシの「優しい川」
という曲で、少しずつ明るくなる朝の凜とした
ガンジス川を眺めながら、
唸るような歌声のその曲を聴いていると、
僕も友人も目頭が熱くなってきた。
「やっぱりいいなあ」と、曲についてなのか
目の前の風景についてなのか分からない
あいまいな感想を、お互い少し照れながら
言い合った。

ちなみにエレカシのカセットを持ってきた友人は、
卒業後に食品会社に就職をしたんだけど、
その後、健康食品会社や携帯電話販売会社など
いくつか職を変えていくうちに連絡も途絶え
年賀状のやり取りをするだけになってしまった。
健康食品会社で働いていた頃、牡蠣だかスッポン
だかのエキスが入った錠剤をたくさん持ってきて、
「こんなの本当に効くかどうか分かんないけどね」
なんてグチっぽいことを言いながらサンプルを
くれたりしたけど、けっこう大きくなった娘2人の
写真が印刷された年賀状を見ると、それなりに
幸せにやっているのかなと思う。
もうひとり一緒にインドに行った森高千里の
ファンだった友人は、当時花形だった広告代理店に
就職し、念願だったTVコマーシャルや
企業広告キャンペーンのディレクターをしている。

はじめての海外への一人旅は、タイだった。
空港に着き、バンコクの安宿街カオサンに行くと
露店にカセットテープがたくさん売っていて、
思わず嬉しくなったのを覚えている。
そこでリリースされたばかりの
アズティックカメラの「stray」と
ギャラクシー500 の「This is our music」の
カセットテープを手に入れて、旅の間中ずっと
聴いていた。
どちらもタイの穏やかな空気にとても似合っていて
例えば夕暮れのサムイ島でひとり孤独に浸りながら
聴くのにぴったりの音楽だった。

ちなみに当時ネオ・アコースティックの貴公子と
呼ばれていたアズティックカメラの中心メンバー、
ロディ・フレイムは、今も活動を続けている。
3年前にリリースしたアルバムの写真は、
過ぎた年月の分しっかり歳をとっていて
美少年だった当時の面影も薄れてしまっているけど、
気負いのなく地道に彼らしい音楽を続けている。
ギャラクシー500は、その後すぐ解散してしまい
見に行く予定だった来日公演もキャンセルになって
しまった。(僕はめったにライブに行かないのに、
キャンセルになる率が高い)
解散理由として、ベースの女性とドラムの男が
くっついてしまい、ボーカル&ギターのディーンが
「多数決をすると、必ず僕の意見は通らないから」
と言っていたのを雑誌で読んで、まるで学生バンド
みたいだと思ったけど、それも彼ららしかった。
その後、ディーンは、Lunaというバンドを結成。
はじめてアアルトコーヒーに行った時に、
このLunaの曲が流れてきて、庄野さんのセンスに
共感したのを覚えている。
またベースの女性とドラムの男は、それぞれの
名前を冠したデーモン&ナオミとして活動中。
どちらのバンドもヒットはないけど、
地道に良質な音楽を作り続けている。


ちょっと話が横道にそれたのでラジカセの話に
戻るけど、ラジカセには当然ラジオもついているから、
旅先ではラジオも聴いた。
僕はラジオで育った世代だし、RCサクセションの
「トランジスタラジオ」もお気に入りの曲だから
それぞれの国で、どんな音楽がかかっているのか
とても興味深かった。

働くようになってからも、ツーリング中のキャンプ
サイトや、出張で行った地方のビジネスホテルでも
その小さなラジカセは活躍した。

その後、iPodが発売された時は、音楽好きとしては
ワクワクしたし、これから旅先にどのカセットテープ
を持っていくか悩まずにすむのは嬉しかった。

今、長期の出張にいつも持って行くMacBookには
82日間ぶっ通しで聞けるだけの音楽が入っている。
さらに、毎日持ち歩くiPhoneにだって、
カセットテープにすれば100本分くらいの音楽が
入っている。
ネットではどこにいても世界中のラジオが聴けるし、
それはそれで便利で楽しく素晴らしいことである
のは間違いない。

今ではカセットテープもラジカセもどこかに行って
しまって、使うこともない。
だけど、ラジカセやカセットテープがもたらして
くれた親密な温かさを伴った音楽の記憶は、
僕の中にしっかりと残っている。
そんなアナログの良さを何らかの形で次の世代へ
伝えていくことも、また僕らの世代の大事な役割
なのかもしれないと思ったりもする。
ノートだって、うっかりするとなくなってしまい
かねないしね。

話は変わりますが、今週2月27日、
トラベラーズノートとスパイラルリングノートの
あたらしいラインアップを公式サイトで発表します。
発売は3月下旬になりますが、まずは楽しみにして
お待ちいただければ幸いです。


20180225aaa.jpg

2018年2月19日

I Wanna Be Adored

20180218b.jpg


「最近、よく来てくれる小学生の男の子が
いるんですよ」
そんな話をトラベラーズファクトリー中目黒の
スタッフから聞いた時、最初はそのことをよく
理解できなかった。
文房具は扱っているけど、小学校で使うような
ものは、ほとんどないと思っていたし、
小学生がトラベラーズノートやブラスペンを
使う姿もイメージできなかった。
正直に言えば、最初聞いた時には騒いだりして
他のお客さんの迷惑になったりしたら嫌だな、
なんて思った。

だけど、スタッフに聞いてみると、そんなことは
全くなく、純粋にトラベラーズファクトリーの
商品や空間に興味があって来てくれて、さらに
お小遣いで買い物もしてくれる時もあるとのこと。
そのうち、彼の友人も来るようになり、
トラベラーズファクトリーが近くの小学校の一部の
生徒の間で話題になっていると伝えてくれた。

そんな報告を聞いているうちに、
僕は純粋にその少年たちに興味を持ち、会いたいと
思うようになった。

それから数ヶ月して、イベントがあって
トラベラーズファクトリーにいる時、ついに彼らに
会うことができた。
一人は、トラベラーズノートのパスポートサイズと
ブラスペンシルを手に持っていたので、
「使ってくれているんだね。ありがとう」
と話しかけてみた。すると、
「はい、こんにちは」と丁寧に挨拶をして
トラベラーズノートを見せてくれた。
「まだ使い始めたばかりで、あまり書いていません」
と彼は言うと、僕のトラベラーズノートを見ながら
「これは、どれくらい使っているんですか」
と質問をしてきた。
「これは12年使っているんだ。君のだって、
これから大人になるまで使い続ければ、
もっともっと味が出てくるよ」
と答えながら、まだ12歳の彼が大人になるまで
使い続けているトラベラーズノートを想像し、
逆に羨ましい気持ちになった。

例えば10年後、22歳になった彼が
バックパッカーとして海外を旅していて、
手元には年齢には釣り合わないくらいすっかり
味が出たトラベラーズノートとブラスペンシルがある。
それを見た誰かがこんなことを言う。
「ずいぶん味のあるノートとペンだね」
すると彼はこう答える。
「子供の頃、トラベラーズファクトリーという
お店が近所にあってそこで買ったんです」
「小学生の頃から使い続けているなんて素敵だね」
「まだ小学生だったから思い切った買い物だったけど
それからもそこに通ってお店の人と話をするうちに、
紙に書いたり、旅をすることにどんどん興味を持って
このノートに日々のことや旅のことを綴るように
なったんです。
それで今は、旅をしながら小説を書いています」
そして、誇らしげにノートを開くと、
慣れた手つきで鉛筆を走らせて物語を綴っていく...。
思わずそんなシーンが頭に浮かんだ。

「早くこんな風に味がでるといいな」
と彼が友達と店内で話している姿を見ていると、
小学生が買い物に来ると聞いた時に感じた
ちょっとした違和感はすっかりなくなった。

そういえば、僕だって小学生の頃に乗ることも
できないのに友達と近所のバイク屋さんに通い、
新しくリリースしたばかりのバイクのカタログを
嬉々として集めていた。
バイク屋のお兄さんは「ひとり1部ずつだよ」と
言いながらも、本物のお客になるにはあと何年も
必要な僕らに嫌がらずにカタログをくれた。
手を油で真っ黒にしてバイクを修理している店員、
「調子はどう?」と彼に親しげに話しかけながら、
ヘルメットを片手に入ってくる客、オイルの匂い、
そこは少年時代の僕らにとって憧れの世界だった。
家に帰ると、ボロボロになるまでカタログを見返し
颯爽とバイクにまたがる自分を夢見ていた。

小学生の頃にはじめて自分のお小遣いで
レコードを買った時だってそうだった。
当時のレコードの値段は2800円で、
小学生にとってかなりの大金だったから、
けっこう思い切らないと買えないものだった。
だけど、たくさんのレコードが並ぶ店内で何度も
通った後に初めてレコードを買った時は、
大人になったみたいで誇らしい気分でいっぱい
だった。

今でもその時の気分は、はっきり覚えているし、
大人の世界への憧れこそが、あたらしい世界へと導き
自分の価値観やセンスのベースを作ってくれた。
今だって、いろいろな人に憧れるし、
憧れが何かはじめるきっかけを与えてくれたり、
後押しをしてくれることがたくさんある。
ちょうど今、中目黒でイベントを開催している
ko'da styleのこうださんやair room productsの
かもさんだってそんなそんな存在だ。

だからこそ、トラベラーズファクトリーが、
これから思春期を迎えようとしている少年に
ちょっとした憧れを与えているとすれば、
こんなに嬉しいことはない。

ストーン・ローゼズの歌みたいに
憧れられたいなんて思うほど自信家ではないけど
こんな世の中だからこそ、若い世代が憧れる
ようなモノや場所、生き方を提示していくことは、
僕ら大切な大人の責任だということに、あらためて
気付かされた。
もういい歳だしね。


20180218a.jpg

2018年2月13日

My Funny Valentine

20180212b.jpg


女の子が少し不安な面持ちで店内に入って来る。
ゆっくり商品を手に取ったり、戻したりしながら、
何かを考えごとをしているようにも見える。
そこでスタッフの一人が、さりげなく声をかけた。
「何かお探しですか?」
「あ、はい、プレゼントを探しているのですが」
ちょっと緊張気味に女の子は答える。

店内には、God Help The Girlの曲が流れている。
不安で押しつぶされそうだった女の子が、
音楽によって生きていく勇気を与えられ、
救われていく。そんな映画で使われていた曲だ。

女の子は、バレンタインデーのプレゼントを
探していると伝えてくれた。
その表情から、きっとその相手とは、安心して
一緒にいれるような状態ではなく、
このプレゼントをきっかけにそうなれれば、
ということなのが察せられた。
だけどスタッフは、あからさまにそんなことは
表さず、一緒になって何がいいかを考えた。

小さな店内を何周もして悩んだ末に、
このお店の一番のおすすめである
トラベラーズノートに決めた。
「いつも手にするもので、長く使うほどに愛着が
湧くので、ずっと付き合っていきたい方への
ギフトにぴったりですよ」
そんな言葉が決め手になった。
このノートに二人の物語が綴られていったら、
どんなに素敵だろう、と思った。

女の子はほっとしたように支払いを済ませると、
スタッフが丁寧にラッピングするのを眺めた。
するとスタッフは、ギフトに添えるカードを
渡してくれた。
そこで2階でコーヒーを飲みながら、
カードにメッセージを書いてみようと思った。

誰もいない静かな2階で、ペンを手にとると、
マイ・ファニー・バレンタインが流れてきた。
しばらく耳をすませてチェット・ベイカーが
物憂げにつぶやくように歌うのを聴いていると、
いつもおどけて自分のことをからかってばかりいる、
相手を思い出し切ない気持ちになった。
もうすぐ大学を卒業して、それぞれ違う道を
歩こうしている2人。
その前に自分の気持ちを伝えたかったけど、
それは、簡単なことではなかった。
夏目漱石が英語教師をしていた時、
I love youを「我君を愛す」と訳した生徒に、
「日本人はそんなことを言わない。月が綺麗ですね、
と言えば通じるんだ」なんて言ったそうだけど、
そんな言葉で通じ合える昔の日本人がちょっと
羨ましかった。

結局カードには、相手の名前と自分の名前の間に
これからもよろしくね、と一言だけ書いた。

「いろいろありがとうございました」
女の子はあえて明るく声をかけながら店を出た。
「こちらこそありがとうございます。
プレゼント、喜んでもらえるといいですね」
とスタッフもまた笑顔で答えた。
外はすっかり暗くなり、頬には2月の冷たい風が
あたった。


それから1ヶ月。
またその女の子がやってきた。
隣には、彼女と同じ年頃の男性がいた。
彼は女の子のために自分とお揃いのノートを買うと、
2人で嬉しそうにスタンプを押した。


もうすぐバレンタインデー。
こんなことがトラベラーズファクトリーであったら
いいなあと妄想を書き綴ってみました。

話変わって今週2月16日(金)~2月19日(月)、
トラベラーズファクトリー中目黒にて、
葉山で作られる帆布バッグ、KO'DA STYLEと
メイドインジャパンの背伸びせずに着られる
心地よいシャツ、AIR ROOM PRODUCTSの
展示販売イベント、BAG AND SHIRTSを開催します。
春を予感させてくれる素敵なシャツとバッグです。
ぜひご覧ください。


20180212a.jpg

2018年4月

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

アーカイブ

店長のプロフィール

(株)デザインフィルでトラベラーズノートの企画を担当している飯島です。