2017年8月21日

2017年、夏の旅

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青春18切符で岡山に着き、安ホテルで夜を明かすと、
翌日の朝、再び岡山駅に向かった。
駅前の噴水には朝の日差しが照りつけていて、
そこに薄っすらと虹が見えた。

早朝出発した新幹線に深夜バス、さらに実家のある
京都から車でやってきた3人に加え、たまたま大阪に
来ていたチェンマイの友人が岡山駅に集まる。
昨日までの鈍行列車の一人旅とは打って変わって、
この日はトラベラーズチームでの旅。
早速みんなで車に乗り込んだ。

夏休みがはじまる直前に、急遽この日に岡山に
集まることが決まった。
会いたい人に見ておきたい場所があるけど、
ちょっと行きづらいし、すぐに行かなきゃいけない
理由があるわけでもない。
だけど、誰かがそこに行こうと言い出して、
予定や都合に想い、みんなの旅の高揚感が合致すると、
それぞれの個人的事情をちょっと横に置き、
そこに行くことが必然になって、旅がはじまる。
久々のトラベラーズチームらしい旅のはじまりに
僕もわくわくしていた。

賑やかな駅を離れて静かな山奥をしばらく車で
進んでいくと、目的地に着いた。

Superior Laborというブランドのオーナー、
河合さんに初めて会ったのは、先月香港で開催された
LOG-ONでのイベントだった。
プロダクトはもちろん、ものづくりに対する姿勢に
興味を持ち、話をすると、岡山の山奥にある廃校を
買い取って、そこを工房にしていたり、さらに、
敷地内にはカフェや自分たちの住まいがあるのを
聞いていつか訪れたいと思っていた。

実際に訪れてみると、想像通りの素敵な場所だった。
終戦直後に分校として建てられて廃校となった
木造平屋をリノベーションして作られた工房に入ると
年代物のミシンや革加工の機械が並んでいる。
作りたいものがあると、機械を手に入れ試行錯誤を
しながら自分たちで作る。
効率性やコストを追求するのではなく、かといって
高級な1点ものでもなく、自分たちの生業として
誇りを持って楽しみながら世界に通じる良いものを
作ろうとする。
これからの日本のものづくりが目指す在り方を感じ
共感するとともに、それを素敵に体現している姿に
羨ましさも感じた。

工房を見学した後は、敷地内にあるカフェで
異国の匂いを感じる食べ物をいただきながら、
一緒に何かしたいですねといろいろな話をした。
話は尽きなかったけど、次の場所に移動する時間と
なり、東京での再会を約束して別れた。

その後、倉敷の街を見てから京都へ向かう。
京都では、恵文社一乗寺店の店長だった堀部さんが
2年前にオープンした誠光社に行って、久しぶりに
堀部さんと話をしたり、おなじみのエレファント
ファクトリーコーヒーやかもがわカフェで美味しい
コーヒーを飲んだり、下鴨神社で開催していた
古本市を覗いたりして過ごした。
京都は、トラベラーズのイベントを東京以外で最も
開催してきた場所だし、馴染みのお店もいくつかある。
ここに来ると、また帰ってきたなと思えるし、
トラベラーズにとって大切なことを思い出させて
くれる特別な場所だ。

京都でみんなと別れて再び青春18切符の一人旅。
帰りは名古屋で一泊して、ゆっくり東京へ向かった。
これが、2017年の夏の旅だ。
東京に帰ると激しい雨が降っていた。久しぶりに見た
テレビのニュースでは、何十年ぶりかで8月に
連続16日間雨が続いていると言っていた。
今年は秋が早めにやってくるのかもしれないな。


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2017年8月17日

青春18切符の旅

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朝6時に家を出てJRの駅に着つくと、改札で
青春18切符に日付入りのスタンプを押してもらった。
ちょっと青臭くて気恥ずかしいけど、意外と気に
入っている名前のこの切符を久しぶりに手にすると、
それだけでどこへでも行けそうな気分になる。
その名前からはずいぶんかけ離れた年齢だし
新幹線や飛行機に乗って旅をすることだって
たくさんあるけど、お金はそれほど必要なくて
その分時間がたっぷり必要な18切符での旅は、
旅の原点みたいなものを思い出させてくれて、
わくわくしてくる。

6時45分に東京駅に到着。
東海道線に乗り換えると、西に向かって進んでいる
ことを実感できる。
8時14分小田原到着。その後熱海、沼津、掛川で
電車を乗り換え、名古屋を通過したのは13時頃。
この辺りになると、電車はボックスシートが多くなり、
車窓を眺めながらの旅が楽しめる。
変わりゆく風景を横に感じながら本を読んでいると
不思議にページが進む。こんな風にのんびり本が
読めるのも鈍行電車の旅の魅力のひとつだ。
車窓から見える東海道の風景と本の舞台となっている
戦前の中国の風景を頭のなかで行き来する。

13時46分に着いた大垣駅では改札を出て、
この日はじめてのタバコを吸った後に、お昼ご飯に
駅前のパン屋で菓子パンを買う。
青春18切符は、思い立った時に途中下車ができる。
本当はその土地の名物を食べたかったけど、
時間もないし、駅のホームでパンをかじるのも、
18切符の旅らしくていいなと思った。それはそれで
美味しかったしね。

米原から姫路までは快速で一気に進む。
本を読んでいるうちに眠ってしまったようで、
京都も大阪も気づかないうちに通り過ぎていた。
姫路の駅で降りると、姫路城が目の前に見えたので、
近くまで歩いてみる。
あまりの暑さでアイスキャンディーを舐めながら
歩いた。姫路城では、トラベラーズノートとともに
写真を撮ると、そのまま駅まで引き返した。
ここから岡山まで乗り換えなしで1時間25分。
旅は順調に推移している。

電車が進むにつれて、車窓の景色は夕闇に
包まれていくと、ヘッドフォンからは、
ダニエル・ジョンストンの曲が流れてきた。
悲しくて切ないその曲を聴きながら、薄暗くて
寂しい外を景色を眺めていると、自然と感傷的な
気分になって、いろいろことが頭の中を巡った。
今日の旅もまもなく終わろうとしていた。

そして、20時34分、目的地の岡山駅に到着。
駅に着くと、ラーメンを食べて安ホテルに泊まった。
旅の続きはまたあらためて。


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2017年8月 7日

Let's get on TRAVELER'S TRAIN!

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8月、夏がやってきた。
今年の夏はどこへ行こうか、何をしようかと
思いを巡らすのも楽しい時間だ。

今年はトラベラーズファクトリーステーションの
オープンがあったりして、なんとなく電車で遠出を
したいなあと思っていたら、いろいろなタイミングが
重なって岡山へ行くことになった。

早速調べてみると、ずっと鈍行列車で行くと。
朝早く東京を出てもたっぷり丸1日かかる。
途中でご飯を食べたりしなくちゃいけないから、
着くのは夜の遅い時間になるだろう。
電車旅を満喫するには十分すぎる時間だ。

まずは駅に行き、青春18切符とポケットサイズの
時刻表を買ってくる。
青春18切符は5日分あるので、帰りは途中のどこか
の街で泊まってゆっくり帰ることにしよう。
車内では時間がたっぷりあるはずだから、
本を買いに行く。ずっと前に読もうと思っていた
長編の連作を見つけて購入。
iPhoneにはトラベラーズファクトリーで流している
BGMがたっぷり入っている。
これでさらにトラベラーズノートがあれば、長い
車内で手持ち無沙汰になることもない。

夏は荷物が少なくてすむのもいい。
前回使った時に壊れたままだったトランクを
使えるように直す。
出発まではまだ何日かあるけど、トランクに荷物を
詰めたら、そのままさっと出かけられるこの感じが
いいなあ。

「どこにいようが、おれのトランクはベッドの
下からいつでも取り出せるようになっている。
いつでも出ていける。
いつ叩き出されてもいいようになっている」

これは小説『オン・ザ・ロード』で自由奔放で
旅するように暮らすサル・パラダイスが言うセリフだ。
寅さんは、家族と喧嘩をしたり、好きだった女性に
振られたりして、家に居づらくなると、
2階の部屋でささっと荷物を詰めて、ジャケットを
肩にひっかけると、トランク片手に「じゃあな!」
と一言、旅に出る。

そんな風にふらっと旅に出る姿に憧れる。
常識としがらみに縛られた普通の社会人である
僕は、ふと思い立って旅に出るなんてなかなか
できないけど、気分だけでもそんな生粋の
トラベラーたちに見習いたいと思っている。

そういえば、今週水曜日に2018年ダイアリーの
ラインアップを公式サイトで発表します。
2018年のテーマはトラベラーズトレイン。
こちらも楽しみにしてください。

それでは、皆様もよい旅を!


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2017年7月31日

香港の古いビルを巡る

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香港の風景として思い出すのは、ビル群だ。
夜には美しい夜景を演出するシーサイドの
巨大高層ビルから、今にも壁が崩れ落ちそうな
下町の古いビルまで、街中のいたる所で見られる
ビル群が香港の風景を作っている。

中国の小さな漁村に過ぎなかったこの場所が、
アヘン戦争によってイギリスの植民地となり、
その後、辛亥革命から中国の共産主義政権の設立、
文化大革命などの影響で、多くの人たちが中国から
この決して広くない地域に流入してきたことで、
人口が爆発的に増えていき、さらに自由貿易港
として経済が発展し国際都市になってきた歴史を
建ち並ぶビル群から感じることができる。

香港では、そんな歴史の証となるような有名な
ビルがいくつもある。
僕が香港をはじめて訪れた時に泊まった重慶大厦も
そのひとつ。
繁華街の中心にあるこのビルの中には、
たくさんの安宿に、インド料理店やインド音楽を
流すCD屋、両替商に携帯屋などが並び、さらに
インドに、中東アジア、アフリカに欧米から
やってきたたくさんの旅人が歩くことで、
独特の混沌とした怪しい雰囲気をかもしだしている。
さすがに最近はここに泊まることはないけど、
近くを通ると今でも中をのぞいてみたくなる場所
でもある。

今回の香港出張では他にもたくさんある名物ビルの
いくつかをパトリックが案内してくれた。

南山邨は、1970年に建てられた公共住宅。
生鮮食品や日用雑貨が売られている店が並ぶ1階2階を
抜けると、上階の住居エリアが見える広場に出る。
美しい幾何学模様のように規則正しく窓には、
所々に物干し竿や手すりに架けられた布団が見えて、
そこに住む人たちの暮らしを感じさせてくれる。
夕方、穏やかな風が流れるなかで、そこに住んでいる
と思われる年寄りが静かにベンチに座っているのを
見ると、人が密集した場所なのに懐かしい田舎にいる
ような気分になった。

さらに、Quarry Bay にあるビル群はすごかった。
ここにある高層ビル、益昌大廈は、何層にも建て増し
されて積み重なり、塊となってそびえ立つ要塞の
ようなビルだ。
映画やミュージックビデオの舞台にもなっていて、
ビルに囲まれた中庭から眺める景色は圧巻。
昔読んだ藤子不二雄Ⓐの漫画に出てきた、今はなき
九龍城のイメージそのものだった。
この漫画は、絶対に近づいてはいけないと言われて
いた九龍城に興味本位に足を運んだ日本人観光客が
おぞましい理由で殺されてしまうという話で、
恐怖とともにそのイメージが僕の頭にインプット
されていた。
パトリックが先導するなかで、探検するようにビル
の中に入り、屋上まで行ってきたんだけど、そこから
見下ろした光景もまた大迫力だった。
写真を載せているけど、夜にiPhoneで撮った写真では
いまひとつその迫力が伝わらないと思うので、
ぜひ興味のある方は、Yick Cheong Buildings で
画像検索してみてください。

これらのビルはすべて今も現役で使われていて、
人も住んでいる。
実際にそこを訪れてみると、そこでも暮らしは
不便なことも多いかもしれないけど、きれいなだけの
新しいビルより、人との繋がりや歴史の味わいを感じる
ことができて、快適なのかもしれないと思えてくる。
また、古いビルを利用した若いアーティストのための
ギャラリーやゲストハウスもある。
東京の長屋が並ぶ下町の風景もそうだけど、
いつまでもきちんと生きている古い建物が残って
いてほしいと思うのは、旅行者の勝手な願いなの
だろうか。

皆さんも香港を訪れた際は、ぜひ古いビル巡りを
してみてはいかがでしょうか。
スターフェリーにトラム、さらにミスターソフティー
とともにおすすめですよ。


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2017年7月26日

Have a ice trip with Mister Softee!

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台風の多い香港では、警報発令時のルールがきちんと
決められてるようで、警報シグナル8が発令されると
学校などの公共機関やオフィスが自動的に休みになる。
店もほとんどが休みになり、街も静かになる。

香港に来て初めて、このシグナル8に遭遇。
開催中のLOG-ON x TRAVELER'S FACTORYの
ポップアップショップは急遽クローズになり、
店や名所を見て歩くこともできず、ホテルの部屋で
のんびりと時間を過ごすことになってしまった。
そんな時間を利用してこのブログを書いている。

ミスターソフティーとのコラボレーションは
ポップアップイベントとあわせて、LOG-ONの
パトリックが提案をしてくれたことからはじまった。
ミスターソフティーは、香港の街でたまに見かける、
バンでやってくる移動型のアイスクリーム屋さん。
パトリックは、写真を見せながら、子供の頃に親に
買ってもらい喜んで食べていた思い出や、
音楽を鳴らしながらやってくる独特のバンのこと、
1970年から続く歴史などを語ってくれた。

1970年に、イギリスからアイスクリームマシンを
車内に搭載したバンを香港に持ち込みはじめられた
ミスターソフティーは、その後14台までバンを拡大
したタイミングの1978年に、香港政府はバンの屋台
のライセンス発行を停止した。
ビジネスが軌道に乗っていたミスターソフティーに
対しては冷蔵庫などの設備を整えることを条件に
特例で営業を続けるのを許可。
そんなわけで、香港では、この14台が唯一残る、
アイスクリームバンとなっている。

実は、香港には今まで何度も来ていたのに、
ミスター・ソフティーのアイスクリームは食べた
ことがなった。
今回はじめて食べた、たった150円で食べられる
ソフトクリームは、牛乳のコクを感じる濃厚な
高級ソフトクリームとは真逆で、駄菓子のような
懐かしくて温かみのある味だった。
LOG-ONが手配してくれたポップアップイベント告知
のラッピングバンを見つけると、僕らはみんな笑顔で、
ソフトクリームを食べて、コラボレーションの
リフィルと並べて写真を撮ったりした。

さらに翌日は、コラボレーションをとても喜んで
くれたオーナーの計らいで、会場近くの空き地に、
特別にバンを呼んでくれた。僕らは車内に入ったり、
にわかアイスクリーム屋となってソフトクリームを
コーンにのせるのを体験させてもらったりした。
そんなことをしている間もバンを見つけた子供達や
暑い日差しに疲れた顔をした大人がソフトクリームを
求めてやって来くると、みんな笑顔で食べながら
帰っていったのが印象的だったな。

東洋と西洋が混ざり合った独特の味わいに、
利便性や効率性よりも、情緒や歴史を大切にし、
それが旅人のみならず地元の人の日常にきちんと
溶け込んでいることが、スターフェリーやトラムの
魅力であり、コラボレーションをした理由でもある。
ミスターソフティーが旅人にも地元の人たちにも
愛されている姿を見て、あらためてその魅力は、
同じだと思った。

香港は、初の海外イベントを開催したり、
前述のコラボレーションに、スターフェリーでの
船上イベントなど、トラベラーズにとっては、
思い出深い特別な場所だ。
香港が特別である一番の理由は、トラベラーズの
最大の理解者であり、協力者であり、友人でもある
パトリックの存在があるからに他ならない。
さらに、LOG-ONには、彼と同じように、
トラベラーズノートが大好きで相棒のように使って
くれているスタッフがたくさんいる。

そんな仲間がトラベラーズノートの魅力を伝えて
くれているから、ポップアップショップイベントには
たくさんの香港ユーザーが足を運んでくれた。
初回の在庫が少なく、早々に欠品してご迷惑を
おかけしてしまいましたが、皆さんのトラベラーズ
ノートを見せていただきながら、僕らも楽しい時間
を過ごすことができました。
この場を借りて、あらためて感謝を申し上げたいと
思います。

ミスターソフティーとのコラボレーションアイテムは
日本では8月2日よりトラベラーズファクトリー各店で
発売しますので、こちらもよろしくお願いします。

今回の出張では、もう一人のトラベラーズノートの
香港サポーターでもあるリタさんとパトリックが
ずっと付きっきりで、香港を案内してくれたんだけど、
その話はまたあらためて。


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2017年7月18日

TRAVELER'S DRIVE-IN

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朝から200キロ以上営業車を走らせ、10軒もの
店をまわったのに、注文書に書かれた金額は目標を
大きく下回っていた。
最後に訪問した、困った時の奥の手としてキープ
してあった未開拓の店も空振りで、車の走行距離と
労働時間が虚しく増えてしまっただけだった。
そんな憂鬱の中で、道路灯もない真っ暗な道を
まだ遠い家路に向かい走っていた。

時計を見ると、20時を過ぎたところ。
どこかでお腹を満たしたいと思ったけど、
この寂れた夜の道で、そんな場所を見つけることが
できるのだろうか。
結局、空腹のまま、小さな峠をいくつか越えた。
記憶では、そろそろ走り慣れた国道に出るはずなのに、
そんな気配はない。
どこかで道を間違えてしまったのだろうか。
今日はなにをやってもうまくいかないな。
暗くて先の見えない峠道を走りながら、ぼんやりと
した不安が襲ってくるのを感じた。
信号もない十字路で一度車を止めてみた。
空を見上げると、今まで見たこともないような
美しい星空が広がっていた。
タバコに火をつけて、気分を切り替えようと思った。
そういえば明日は休日だということに気づいた。

すると十字路の角に小さな案内板を見つけた。
腰まで生い茂る夏草で隠れてしまって、
車を止めなければ確実に気づかないくらい、
遠慮がちな佇まいで、それはあった。
ところどころにサビが目立ち、ペンキもはがれて
いたけれど、トラベラーズドライブインという
文字が辛うじて読み取れる。
時計を見ると、22時になろうとしていた。
まだ開いているのか、そもそもほんとうにあるのか、
あまり期待せず車に乗ると、十字路を曲がった。

しばらく走ると、ぼんやりと光る地球を描いた
丸い看板が見つかった。さらに、壁には大きく、
トラベラーズドライブインと、さっきの案内板と
同じ名前が、ペンキで描かれていた。
真っ暗で他には何もない場所で静かに光を灯して佇む
建物は、まるでエドワード・ホッパーの絵のようで、
孤独感と同時に温かさを感じさせてくれた。

5、6台停められる駐車場には、真っ赤なドゥカティ
のオートバイと、車が2台停まっていた。
僕はドゥカティの隣に車を停めると、黒ずんだ真鍮
の引き戸を引いて中に入った。

ドライブインという名前から、焼肉スタミナ定食や
カツ丼などが食べられるプロのドライバー向けの
食堂を想像していたけれど、良い意味でそれは
裏切られた。

カウンターには、マリネや肉団子、ソーセージに
テリーヌなどが盛り付けられた大皿が並んでいる。
どれも見ただけで、厳選された上質の素材を使って
手間をかけて丁寧に作られたのが分かる。
厨房の奥には石窯があり、ナンを少し小さめに
したようなパンを焼いていた。
パンが焼ける香ばしい匂いとともに、
アイルランド民謡やキューバ音楽に、カントリー
ミュージックなどが不思議な統一感でセレクトされ
流されているBGMが、その食べ物の無国籍な魅力を
引き立てていた。

どんな料理かわからないまま、僕は店の勧めに従い、
パンとあわせて、大皿の中からいくつかのオカズを
頼んだ。

「パンにのせて食べてくださいね」
その言葉通り、カスタマイズするようにオカズを
組み合わせてパンにのせて食べてみた。

「美味しいなあ」
思わず言葉に出してしまった。はじめて食べるのに、
懐かしさを感じるのは、いつか食べてみたいとずっと
心の中で妄想していた料理なのかもしれない。

「美味しいですよね。私はチーズとハチミツをかけて
食べるのが好き」
一つ空いた席で、もうすでに食べ終わり、コーヒーを
飲んでいた女性が、僕の独り言に気づき話かけてきた。

「ここにはよく来るんですか?」
僕は思いがけず素敵な場所に出会えたことを喜び、
このお店のことをもっと知りたいと思った。

「3回目。ほんとうはもっと来ようとしたことが
あったけど、探しても辿り着けなかったことの方が
多いの。わたし方向音痴だし」
「確かにここはわかりづらいですよね。僕だって
道に迷って車を走らせていたら偶然見つけたんです」
「ここは道に迷わないと辿り着けない場所なの。
群れからはぐれた迷い鳥が羽を休めて、また
旅立つ場所」

そんな意味深なことを言うと、彼女はテーブルに
置いてあった革のノートを閉じて手に取り、
オートバイとお揃いの赤いヘルメットを抱えて、
「もしコーヒーが好きなら、ここのブレンドは
美味しいから飲んだ方がいいですよ」
と言いながら立ち上がった。

彼女がさっきまでコーヒーを飲みながらノートに
描いていたスケッチのことや、オートバイのこと、
そして、意味深な言葉の真意など、もうちょっと話を
続けたかった僕は、残念な気持ちで「気をつけて」
と言うと、彼女は「あなたも、良い旅を」と言って
ドアを開けてで出て行った。
しばらくすると、ドゥカティ特有の太めの気品ある
エキゾーストノートが聴こえた。

僕はトラベラーズブレンドと名付けられている
中深煎の美味しいコーヒーを飲みながら、ノートに
上司への言い訳のような営業報告を書いていた。

店内のBGMがボブ・ディランの『くよくよするなよ』
に変わると、ふと、そんなことはどうでもよくなって、
数年前からノートに書き連ねていた小説のようなもの
の続きを久しぶりに書いてみようと思った。
Don't think twice, it's all right,
くよくよ考えるなよ。きっとまだ大丈夫だ。
時計を見ると、もうすぐ今日が終わろうとしていた。
でも、まだ僕の旅は終わっていないし、
もしかしたら、始まってすらいないのかもしれない。
「あなたも、良い旅を」という彼女の言葉が頭の中で
リフレインした。


別にトラベラーズドライブインができる予定が
ある訳でも、実体験に基づいている訳でもなく、
最近再読した片岡義男氏の小説に影響されて、
それ風の物語を書いてみました。
今週は、ミスター・ソフティーのイベントで香港へ
行って来ます。
きっと暑いはずだからアイスクリームを食べて
がんばります!


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2017年7月10日

All Travelers Need Is Love

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7月8日でトラベラーズファクトリーエアポートが
成田空港にオープンして丸3年を迎えた。
まずは旅の途中にこの場所にお立ち寄り頂いた
すべての旅人たちに感謝いたします。
ありがとうございます!

そして、この場所で、愛情とともに旅人たちに
トラベラーズノートを伝えてくれているスタッフの
みんなにもこの場を借りて感謝の気持ちを伝えたい
と思います。ありがとう!

成田空港にトラベラーズファクトリーをオープンした
最も大きな理由は、世界へ旅の玄関口であり、
旅人にあふれたこの場所でその魅力を発信することで、
世界中の旅人たちにトラベラーズノートを使ってもらう
という僕らの夢にもっと近づける予感がしたからだ。
あれから3年経ち、その夢が少しずつ現実感を伴い、
もしかしたらそんなことが不可能ではないのかも、
と信じられる出来事を何度も体感することもできた。

先週は、Global Gatheringというイベントを開催。
世界各地よりトラベラーズノートを扱ってくれている
パートナーの方々が集まり、ミーティングを行った。

世界中のパートナーの多くは、トラベラーズノートを
自ら使っていくうちに、好きが高じて、自分たちの国
で広めていきたいと、販売をはじめてくれた方々
ばかりで、それゆえに個人経営の小さな会社が多い。
でも、その分トラベラーズノートへの愛情がたっぷり
伝わってきて、それがなによりも嬉しかった。

彼らを通じて世界中でトラベラーズノートを大切に
愛情とともに扱ってくれているお店が増えているのも
実感できた。

現在オフィシャルサイトのパートナーショップという
コーナーにその一部を掲載しているけど、紹介したい
お店はもっとたくさんあって、これからどんどん更新
していきたいと思っている。

みんなと話をしてあらためて思ったのは、
やっぱり一番大切なのは、愛であるということ。
先日紹介した10周年記念キャンペーンのメッセージ
からもそれを感じたし、世界各地のパートナーや
ショップからも感じることができた、たくさんの愛
こそがトラベラーズノートの魅力であり、財産であり、
パワーであるということだ。

僕らもビジネスの世界で生きている以上、売上とか、
利益などとは無縁ではいられない。
だけど、トラベラーズにとって何よりも大切に
しなければならないのは、そこに愛があるかどうかで
ありたいと確信した。
自分たちが好きな人に自分たちが好きな物やことを
愛情とともに紹介し、同時に紹介してもらう。
愛が起点だから、自然と価値観は共有し、拡散する。
売上やしがらみ、既成概念より、そこに愛があるか
どうかを第一に考え、それをまっすぐ信じる。
きれいごとで青臭いことのように聞こえるかも
しれないけど、結構本気でそう思っている。

ある時は、ちょっとした軋轢を生んだり、
大きな売上に背を向けることになるかもしれない。
だけど、愛こそがトラベラーズらしさを育み、
同じ思いを共有する仲間たちとともにサステナブルな
ビジネスの成功をも共有できると信じている。

先週、香港のミスター・ソフティーとの
コラボレーション企画を発表したのだけれど、
これだって、香港を拠点にたくさんの人に
トラベラーズノートの魅力を伝えてくれている
パトリックが、ミスター・ソフティーを僕らに紹介し
繋げてくれたことからはじまった。

香港の人に幼少期から幸せな記憶を刻み続けてきた
アイスクリーム屋、ミスター・ソフティーは、
旅人にとっては暑い香港での冷たくて甘いひとときを
味あわせてくれるのと同時に、香港の文化と歴史を
感じさせてくれる。
僕らにとって、コラボレーションは素敵な旅の楽しみ
やあたらしい体験、文化をを共有し、それがいくつも
積み重なり広がっていけばいいなと思って行っている。

トラベラーズノートのちょっと変わって面倒だけど、
生き方を変えてしまう不思議な魅力に魅せられた
人たちが繋がるネットワーク。
もはやそこには作り手と使い手、ビジネスパートナー
と顧客いった境目はなく、みんながユーザーとして、
トラベラーズノートを使い共有することで、
それぞれの人生という旅に前向きな変化をもたらし、
何かを成し遂げようとする力を与えあう。

例えば、インスタグラムでは世界中のユーザーが
アップする、彼らの愛情がたっぷり詰まった
トラベラーズノートを何十万冊も見ることができる。
そんな彼らと世界のどこかの旅先で出会えば、
きっと同じ仲間として自然と話がはじまり、深まり、
繋がることができるはず。そうやってできあがった
コミュニティーは、きっと今までにない新しい楽しみ
や繋がりをもたらしてくれるはず。

世界中で、そんな繋がりが増えていったら素敵だし、
そうなりそうな予感に満ちている。


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2017年7月 3日

What time are you now?

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トラベラーズファクトリーのスタッフが
お客さんから聞いた話を教えてくれた。

自分の年齢を3で割ると、一生を1日で例えた時に
何時にあたるのか分かるという話で、
例えば、そのスタッフは27歳なので3で割ると9、
つまり午前9時にあたるとのこと。
1日で言えば、そろそろ何かをはじめようかな
という頃で、時間はまだたっぷりあって、
午前中にこれとこれをやって、午後なんてずっと
先のことみたいだ。
そのお客さんは、今15時でお茶の時間だから、
ちょっと休んでいるところなんだ、と話してくれた
そうで、トラベラーズファクトリーでは、
そんな素敵な話が日常的にお客さんと繰り広げられて
いるのを知って、その仕事が羨ましくなった。

27歳といえば、ジャニス・ジョプリンが死んだ年でも
あるので、9時という時間がその死の早さをさらに
実感させてくれる。
ジャニスと同じ年に生まれたジョニ・ミッチェルは、
同じ9時には、27歳なりの迷いや悩みが綴られている
名盤『ブルー』をリリース。
その後も何度もスタイルを変化させながら素晴らしい
作品を作り続け、現在は0時をまわり、闘病中。

残念ながら連勝を終えてしまった話題の将棋棋士、
藤井聡太氏は14歳だから、朝の4時半を過ぎたところ。
まだ他の人はみんな眠っているような時間から
誰もが驚く結果をだすのだから、やっぱり天才だな。

ちなみに自分は48歳だから16時。
夕方で日が暮れるのを意識する時間ではあるけど、
夕食まではもうひと仕事かふた仕事はできる時間。
さらに長い夜のことを考えれば、できることは
いっぱいあるような気もして、まだまだがんばろう
って元気がでてくる。
どちらかというと夜型だしね。

こうやって1日に例えて、自分の人生を俯瞰するのは、
なんだかとても楽しい。
誰がやっても、それなりに納得感もありながら、
同時にまだできることはありそうだという気に
なれそうな気がするのもいい。

夕暮れが迫りつつある16時は、若い人が見れば
寂しくないのかな、と思うかもしれないけど、
午前中やお昼に楽しいことや嬉しいことも、
辛いことや悲しいこともそれなりに経験した気分
からすれば、なるほどと思える時間でもあるし、
残りの時間にもちゃんと希望を感じられる。
だいたいストーンズのキースやミックみたいに、
0時をまわっても現役の人だっていっぱいいるしね。

7月。また新しい季節がはじまりました。
今年の梅雨は、なんだか控えめなようで人知れずに
こっそりやってきたみたいだけど、東京では、
その後もあまり存在感を示すこともなく、日差しや
湿気が夏の訪れを感じさせることも多くなってきた。

そんなわけで、うちでもタンスの奥から
半袖のシャツをひっぱり出して、ハンガーにかけた。
白いリネンのシャツに、
インディゴブルーのコットンシャツ。
赤に薄いブルー、白のパターンのストライプ、
薄いブルーの代わりにベージュが入ったストライプ。
10年以上前、つまり人生のお昼時に買った
お気に入りのアロハシャツはだいぶ色あせて
そろそろ着るのを諦めないといけないかもしれない。

ひさしぶりに半袖シャツを着て外にでると、
強い日差しがむき出しの腕にあたってきた。
自転車のペダルを踏むと、そこに涼しげな風が
あたって気持ち良い。
いよいよ夏がやってきたんだな。
そんなことに喜びを感じるのも16時まで生きて
きたからかな、なんて思える。

1日は24時間で1年は12ヶ月。とすると、
自分の年齢を6で割れば同じような計算ができる。
自分の人生を1年でとらえると8月。
う〜ん。これはあまり実感できないなあ。
だいたい年末につれて忙しい気分になるのも
なんだかちょっと違う気がするし、
やっぱり16時の方がしっくりくる。

いろいろ大変だったり、悩んだりすることもある
けど、夕暮れも楽しくやっていきたいなと思う。
ところで、みなさんは今何時ですか?


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2017年6月26日

無地のノートは書き終えると本になる。

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トラベラーズファクトリーステーションで
販売している古書の在庫が少なくなってきたようで、
さっそく何冊か買い付けてきた。

正直に言えば、本のコーナーはそれほど売れないし、
あの小さなお店の中で売上坪効率だけを考えれば、
すぐにでもやめるべきコーナーと言えるかもしれない。
だけど、トラベラーズファクトリーの世界には、
本は外すことができないピースだと思っている。

本は、ノートや紙に書き留めることからはじまる
表現が最もシンプルに形になったものだからだ。
明治の文豪の作品も、今を感じさせるエッセイも、
漫画だって、きっと一人の作者が、ノートや紙に
向かって頭を悩ませながら、ペンを走らせることで
生まれているはずだ。
真っ白なノートが中心にあるこの店内に
本が並ぶことでそれらが生まれる過程を想像し、
さらにノートに何かを書き留めて表現することで
新しい物語が自分の中にはじまるのを想像して
もらえたら嬉しいと思っている。
本の背表紙が並ぶ姿には、そんな想像力を掻き立てる
不思議な力がある。

そんな理由は別にしても、お店に並べる本を選ぶのは
誰かにプレゼントするために、カセットにお気に入り
の曲を録音する時のような、楽しい時間でもある。
トラベラーズファクトリーの本コーナーは
小さいながらもいつも新しい発見があり、
ラインアップを楽しみにしてもらえるような本棚で
ありたいと思っている。
そんなわけで、面白い本にもっと出会いたくて、
最近たくさん本を読むようになった。

先月の鈍行列車の旅で読んだ冴えないレコード屋の
店主の話『ハイ・フィデリティ』がすこぶる面白くて
同じ作家ニック・ホーンビイの
『ア・ロング・ウェイ・ダウン』を読む。
自殺をしようとその名所であるビルの屋上に行った
4人の男女が偶然出会うというところから話が始まる。
未成年への淫行で捕まり出所した中年キャスター、
植物人間となってしまった息子を介護する女性、
バンドを解散し彼女にも振られたミュージシャンに
男に逃げられたパンク少女、そんな4人が繰り広げる
いかにもイギリス的なシャレや皮肉に満ちた小説。

同じイギリス作家でもロアルド・ ダールの
『単独飛行』は、逆に人間愛にあふれ、純粋に夢に
向かう生き方を描いた自伝小説。
第2次大戦直前に仕事でアフリカに赴任し、
戦争がはじまると戦闘機パイロットとして活躍、
何ヶ月も入院するような怪我を負いながらも、
正気を失わず、前向きに人間らしく生きようとする
姿は、読者に爽やかな勇気を与えてくれる。

シリアスな文学作品も数多くある北杜夫が、
躁状態の時に書いた小説『父っちゃんは大変人』は、
中学生の時に読んで面白かったのを思い出し、
久しぶりに再読。突然1兆円の遺産が入ってきて
大金持ちになった父っちゃんが、田園調布に豪邸を
建てただけでは収まらず、まさに正気を失ったように、
日本が出場を辞退していたモスクワオリンピックに
出場するためデンキチ王国として日本から分離独立。
最後には日本に宣戦布告し戦争をはじめてしまう
というお話。
中学生の時にワクワクしながら読んだ記憶があるけど
今読むと1980年代初頭の時代背景も思い出させて
くれるのも面白かった。

そんな1980年代初頭、まさに人気絶頂だった
片岡義男は、当時はちょっと軽薄な感じがして
手にとって読むことはなかった。
だけど、大人になって変な先入観なしで読んでみると
エッセイに面白い本が多いことがわかり、最近は本屋で
手に取ることも多い。
『洋食屋から歩いて5分』は、日常生活のさりげない
発見から小説を書き上げてしまう発想方法や、
近所の商店街や定食屋さんとの素敵な関わり方など、
大人として楽しく生きていくヒントがたくさんある。

片岡義男の作品には、アメリカ文化の影響を色濃く
感じるけど、日本でもっともダイレクトにアメリカの
影響を受けたのは、1972年までアメリカによって
統治されていた沖縄だ。
駒沢敏器の『アメリカのパイを買って帰ろう』は、
立ち寄った沖縄の空港でジミーズパイという、
昔からあるアップルパイを見つけたことからはじまる。
そこから感じるアメリカ統治時代の沖縄の歴史を
紐解いていくことで物語は進んでいく。

作者がアップルパイと出会い、その歴史を辿り、
さらにテーマを掘り下げて1冊の本を綴ったように、
トラベラーズファクトリーにある本や道具と出会い
そこから、あたらしい旅がはじまっていくいいなと
思っている。
そして、旅を無地のノートに書き留めれば、
それは自分が作り上げた1冊の本のようなものだ。
ぜひ自分だけの本をたくさん作ってください。


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2017年6月19日

真っ白な無地のノート

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トラベラーズノートのスターターキットには、
罫線がいっさい印刷されていない真っ白の無地の
リフィルがセットされている。

トラベラーズノートを最初に企画した時、
一番悩んだのは、ノートとしてはかなり高類に
なってしまう、その価格だった。
だから、少しでもコストを削減したかったけど、
革の質を落とすようなことだけはやりたくなかった。
そんな中、ノートを無地にするというのは、最初は
コストを落とす方法のひとつとして思い付いた。
中紙の印刷代分安くできると思ったのだ。
計算してみると、それで実際に下がるコストは
微々たるもので、販売価格に影響を及ぼすレベル
ではなかった。
それでも、当時は、少しでも販売価格を下げたい
という必死の想いがあった。

今ではそれほど珍しくはないけど、その頃は
無地のノートはあまりなかったような気がする。
僕自身も罫線が印刷されていない無地のノートは、
トラベラーズノートの試作品として使ったのが
はじめてだった。
最初はちょっとした違和感があったけど、
使ううちに自由でラフにざくざく書ける感じが、
トラベラーズノートの佇まいとも合っていたのか、
すっかり気に入り、無地の虜になってしまった。

まず思ったのは、自分の字の下手さが気にならず
むしろ味のある字のように思えたことだった。
さらにざくざく描いていくと、真っ白の紙が
子供の頃のらくがき帳を思い出させてくれた。
あの頃は上手いとか下手とか、そんなことを考えず、
自由に無心にただ描くことを楽しんでいたんだ。
そんな子供の頃の気分が蘇ったような気がした。
さらに、絵を添えたり、チケットを貼ったり、
スタンプを押したり、無地ならでは新しい使い方
を発想させてくれた。
その後、方眼や横罫のリフィルも使ってみたけど、
やっぱりなにも印刷されていない無地が、僕には
一番しっくりきた。

こうなると、もうトラベラーズノートに無地の
リフィルがセットされるのは、必然になった。
営業からは無地のノートは売れないんだよね、
なんて声もあったけど、トラベラーズノートは、
まず半強制的にでも無地のノートを使って
もらってほしいと思うようになった。

僕がそうだったように使い慣れない人にとっては、
最初は違和感があるかもしれないけど、
あの真っ白な紙面がもたらしてくれる自由な
紙面の楽しさを体感してもらいたいと思った。

それで気に入らなかったり、他の用途に使いたい
場合には、横罫や方眼も用意してあるので、
それでいいのでは思った。

トラベラーズノートには、その後さまざまな
リフィルが加わっているけど、ダイアリー以外に
無地が多いのは、それがやっぱり一番トラベラーズ
らしいからだと考えている。
ちょっと大げさに言えば、ルールや枠にとらわれず、
好きなように自由に描くのがトラベラーズノートの
醍醐味だと思っている。

僕はそれ以来ずっと無地のノートしか使っていない。
仕事で使うトラベラーズノートには月間ダイアリーと
あわせて軽量紙がセットされている。
軽量紙には、打ち合わせの記録からやることリスト
などが時系列で書き連ねている。
プライベート用には、画用紙と今はステーション
エディションがセットされている。

ステーションの方には、読んだ本の一節や行きたい
お店や場所、ふと思いついたアイデアなどが
とりとめなく書き連ねている。
去年からほぼ毎週1枚なんらかの絵を描いている
画用紙リフィルは、3冊目になった。
僕の机の上には、描き終えたたくさんのノートと、
次を控えているたくさんの未使用のノートが混沌と
した状態で並んでいる。
使い終えたノートは、表紙にステッカーやチケット
などが貼られ、厚みも増して、すでに役割を果たした
誇りと自信に満ちているように見える。
逆に新しいノートは、まだ汚れもなくてきれいで、
ちょっと所在なさげ。

ちなみに、ペンは、最近はブラス万年筆とブラス
ペンシルをそれぞれのペンホルダーに挿している。
どちらもカートリッジを差し込んだり、削ったり、
ちょっとした面倒な一手間があるんだけど、
かしこまらずにざくざく書けるのがいい。
どちらも真っ白なノートにぴったりの筆記具なの
かもしれない。

今でもトラベラーズノートのリフィルを差し替えて、
あたらしいノートの最初の真っ白のページを開く時は、
新鮮な気持ちになる。
こんにちは、しばらくお世話になるけどよろしくね、
なんて心に思いながら、また何かを書き留める。
すると、やっと出番が来たかと、ノートが喜んでいる
ように見えるのはやっぱり気のせいなんだろうな。


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2017年8月

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店長のプロフィール

(株)デザインフィルでトラベラーズノートの企画を担当している飯島です。