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1001話をつくった人

 

 

 

そうだ、星新一の本が好きだったんだ。

先日お邪魔した手紙舎の本棚に氏の本が並ぶ

のを見て、ふと思い出した。


星新一氏の本を読むようになったのは、まだ

小学生の頃。ショートショートと呼ばれる

彼の小説は、ひとつひとつの話が短い上に、

文章が平易でオチもはっきりしていて小学生

でも楽しく読めるような話ばかりでした。


自分の小遣いでマンガではなく、大人が読む

ような文庫本を買うことで、ちょっと大人に

なった気分を味わっていたのを思い出します。

きっと同世代の人には同じような経験をお持ち

の方も多いと思いますが、彼の本からSFという

ジャンル、さらには本を読むことの楽しさを

教えてもらいました。


彼の本は単に読みやすいだけでなくて、洗練

された皮肉や文明批判、さらには生きる意味を

問いかける話も多く、そこからいろいろ人生に

必要なことを学びました。まだ幼い頃に

出会えたのは、とても幸運だったと思います。


しかし、中学生になると筒井康隆や小松左京

などのSF、さらに太宰治など他の文学作品に

興味の対象が変わっていきました。そして、

氏の本を手にする機会もなくなりました。


その星新一氏の生涯を描いた本、最相葉月氏著

「星新一1001話を作った人」を読んでみました。


星新一氏の父親は、戦前には誰もが知っている

大企業だった製薬会社の社長。しかし、晩年は

官僚による理不尽な仕打ちや運の悪さによって、

会社は倒産寸前までに追い込まれてしまいます。


長男の新一氏は父親の死後、若くしてゴタゴタの

状態の会社を引き継ぎました。もともと経営の

才能も興味もなかった彼は、アメリカから伝わった

ばかりのSFに没頭し、自らもSF小説を書きはじめ

るようになります。そして、同時に会社経営から

は身を引きました。


その後、日本のSF第一人者として、その確立に

大きく貢献をします。さらにショートショートと

いう新しいスタイルを作りました。


エフ氏のように登場人物の名前をあえて記号化し、

感情描写を排除した独特の文章は、私小説が

主流の当時の日本文学とは相反するスタイル。

それゆえに人気がありながらも文学的評価は全く

与えられませんでした。


この本を読み、彼の生涯を知ると、その洒脱な

物語とは裏腹にたくさんの苦悶と戦いがあった

ことがわかります。


借金まみれのなか会社の存続のために戦い、

裏切りや挫折を味わう。

小説家になってからもまだ異端だったSFの地位

向上のために戦う。SFの地位が確立されてからは、

後輩の評価が高まるなかで、自分自身は文学的

評価がまったく得られないことに嫉妬や焦りを

感じる。


しかし、最も辛く苦しかったのは、無から宝石の

ような輝きを持った1001話のショートショート

を生み出すための自分自身との戦い。

一人部屋閉じこもり、身を削るような苦しみから

生み出していたことがわかります。


悩んだり、いらいらしながら試行錯誤を繰り返す。

うまくいかず焦ったり、怒ったり、悲しんだり、

つまらないことでいがみあったり・・・。

戦わなければならないこともあるし、不安になる

こともあるけど、自分たちのやり方を追求する。

でも、それを乗り越えてイメージが形になった

瞬間にすべて報われて、最高の喜びが待っている。


新しい何かを生み出すということは、そういう

ことなんですよね。


もう一度少しずつ氏のショートショートを読み

返してみようと思います。初めて読んでから

30年以上経つ今、また新しい感動を与えて

くれそうな気がします。


 


コメント (3)

ゆうひ:

私も好きでした。
ちょうど小学生から中学生の頃、読んでいました。

タイトルは忘れましたが、
ある日突然できた穴。そこへひとつふたつモノを落としてみたら、
なんの変化もないことから、そのうち日本中の人が
要らないものや、あるとやっかいなものを
どんどんその穴に落として行くお話が
今も記憶に残っています。

原発反対のメッセージも込められていて、
使用済み核燃料など処理に困るものも
その穴にどんどん捨てていくんです。
最後のオチは、ある日突然、空から、
穴に一番最初に落としたものが、降ってくるんです。
その続きは、ご想像の通りです。

懐かしいなあ。
もう一度読んでみたいな。

多田野 乙:

ゆうひさん、それは
「おーい でてこーい」
というタイトルです。

iijima:

ゆうひさま、コメントありがとうございます。
「おーい でてこーい」は、わたしもとても印象に残っています。
使用済み核燃料だけではなく、犯罪の証拠や誰かの悪口など、人間の裏側の汚い部分をそこに捨てていき、ある日それがさらされていく瞬間の恐怖をユーモラスに描いた傑作です。
うろ覚えのこの話を思い出しなが、このコメントを書いていたら、他の印象に残った話も思い出してきて、ますます読みたくなってきました(笑)

多田野さん、お答えありがとうございます。やっぱり好きだった人はたくさんいたんだなあーと思いました(笑)

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(株)デザインフィルでトラベラーズノートの企画を担当している飯島です。