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ノートの未来について考えよう

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いつもトラベラーズノートのレギュラーサイズを
使っていた取引先の方と話をしながら、
ふと手元を見ると、パスポートサイズに変わって
いたので、どうしてなのか聞いてみた。

「スケジュールも書かなくなったし、
ノートは打ち合わせの時にメモを取るくらいしか
使わないから、これで十分なんですよ。
スケジュールは全部マックで入力して、そうすると
iPhoneでも見れるし、ほんと便利ですよ」

ノート屋としては、複雑な気持ちになったけれど
確かにそうなんだろうなと思った。

最近すっかり新しいものに目覚めている彼は、
デビットカードがケースのポケットに入った
iPhoneを見せながら、
「もう最近は現金だってほとんど持ち歩かないから
財布もいらないですよ。もうこれだけで国内だって
海外だって十分なんです」と付け加えた。

さらに、そんなわけで財布もバッグもどんどん
売れなくなっていると、その業界の不況を嘆いた。
僕の前だからか、そうは言わなかったけど、
同じ文脈で語れば、当然ノートや手帳だって、
その未来は明るい訳ではないということになる。

思えばトラベラーズノートが発売してからの
この12年と何ヶ月で、ノートを取り巻く環境も
ずいぶん変わった。
iPhoneをはじめとするスマートフォンが登場する
ことで、SNSなどの新しい仕組みが生まれ、
コミュニケーションの形や情報の発信や共有の
仕方もずいぶん変わった。
心の中で浮かんだ、素晴らしいアイデアも
たわいもない考えもノートに記されることもなく、
そのままダイレクトに世界中に発信されるように
なった。
さらに、IotとかAIが急速に発達していくことで、
僕らの生活はこれからも変わっていくらしい。
そう遠くない未来には何かを記録したり、
発信したりするに手を動かす必要がなくなる
かもしれない。

そんななかで、僕らはトラベラーズノートという
革と紙による原始的なプロダクトを作り続けてきたし、
これからもそれを続けようとしている。
だからと言って、新しいテクノロジーを無条件で
拒否するような、偏屈な年寄りのようになりたい訳
でもないし、むしろ新しいものが好きな方だと
思っている。

それに、テクノロジーが進化すればするほど、
相対的にトラベラーズノートの存在感はより高まって
いるような気がする。

何度かここでも書いていることだけど、
トラベラーズノートは、ある特定のターゲットを
設定し、それをもとにマーケティングをして、
生まれたプロダクトではない。
何かの座標軸にポジショニングするようなことは
あえてやらなかったし、むしろそこから外れ、
自由でありたいと考えていた。
その分頼りにしていたのは、自分たちの直感で
自分たちが楽しくわくわくできるかを基準に
ものづくりを進めていった。
それは今も同じで、新しいプロダクトも売り方も
イベントも、楽しくわくわくできるかということを
何より大事にしている。
(もちろん、そのためには楽しいだけでなく
その分面倒なことや辛いこともたくさん
受け入れないといけないのだれど)

SNSなどの新しいテクノロジーとの関わり方も
そうで、それがトラベラーズノートの世界を
もっと楽しいものにしてくれそうだったら
積極的に利用してきたつもりだ。

実際にインスタグラムを使えば、
世界中のユーザーのノートを見ることができるし、
マドリードイベントの様子をリアルタイムで簡単に
世界中に発信できる。
それはトラベラーズノートにとっても、
とても喜ばしいことだと思っている。

テクノロジーの進化は、基本的に世の中が
より便利で効率的になることを目指していく。
例えば、生産性を上げていこうとすれば、
労働時間は管理され、無駄を排除しようとするし、
同じように遊びに行くにも、映画もレストランも
情報をくまなくチェックしてハズレがないようにする。
だけど、人の可能性や価値観は、そんな単純な
ものではないと思うし、失敗や無駄を楽しみ
そこから多くを学ぶことだってできる。
なにより効率化が突き詰められた社会は窮屈だし、
自由にものごとを考える想像力が失われてしまう
ような気がする。

「良い・悪い」「正・悪」「白・黒」は、
はっきり区別できるような単純なものではない。
それらは、グラデーションのようにあいまいで
ちょっと角度を変えて見れば、簡単にひっくり
返ってしまうことだってたくさんある。
そういう価値観の転換に、僕らは新しいドアが
開いたような高揚感を感じてワクワクすること
だってある。

人間がロボットでない以上、
効率化では測れない隙間は絶対必要で、
例えば、紙にペンで何かを書き留めたり、
描いたりするという、テクノロジーの進化とは
逆行する、鈍臭いようなことこそが隙間を生み出し、
想像力を育んでくれるのだと思っている。

革のカバーのノートに、お気に入りのチャームを
つけたり、シールを貼ってカスタマイズをする。
そこに心に浮かんだ言葉を紡ぎ、感動した風景を
絵に描き、その時間、その場所に居合わせた証を
残すようにチケットを貼り、スタンプを押す。
革についた傷やツヤが歴史を物語っていく。
そうするとトラベラーズノートは、その人にとって
心を躍らせてくれる掛け替えのない存在になる。

最新テクノロジーを一切使っていない、
なんでもないありきたりのモノが組み合わさる
ことで心を躍らせるマジックが生まれる。
音楽や小説、絵などと同じように、そんなものが
なくてもきっと生きていくことはできるし、
その意義を理解してくれない人もいるかもしれない。

だけど、それを必要とする人がいる限り、
僕らはノートを作り続けていきたいし、
ノートの楽しさを世界に伝え続けていきたい。
そこにどんな風に新しいテクノロジーが関わって
くるのか、それはその時考えればいいことだと思う。
単純にノートの楽しさを広げたり、伝えるために
有効であれば、知識や予算が許す限り取り入れて
いきたい。
だけど、その中心にあるのは、革と紙で作られた
トラベラーズノートであるのは変わらない。

先週末、トラベラーズファクトリーでは
新春恒例のNEW YEAR & TRIPを開催し、
とてもたくさんの方に足を運んでいただきました。
お店でのイベントなんて、運営する側にとっても
お客様にとっても、効率性とは逆行するようなこと
なのかもしれないけど、でも楽しかったり、
嬉しかったり、そんな感情もまた効率性では
計れないものですよね。


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コメント (4)

136(いちさんろく):

未だガラケー(とうとうそれも期限が迫ってきました)。
溢れる?使用済みコピー用紙を活用すべく、レギュラーサイズで使用していましたが、A4を二つ折りにするのが簡単。トラベラーズノート (カバー)A5版が欲しくなりました。
「プロッター」なるシリーズのバインダー等出ましたが、そこまでしなくていいんです。切りっぱなしの革の、ゴム紐で挟む、気楽さが欲しいのです。
高齢化ですがかなりメールでやりとりできます、それでもファクス連絡の人もいます。ん?なにが言いたかったのだろう?
私の希望は「トラベラーズノート (カバー)A5版」が欲しい。 そういう技術が進歩し、より色々な人が参加できる・使える優しい世界が来ることです。なんか大げさになってすみません。人生に、世の中に無駄なものはないと思っているアナログ大好き!136でした。

iijima:

136さま、とても面白そうですね。ありがとうございます。
ぜひ次回の製品作りの参考にさせていただきます。と答えたいところではありますが、残念ながら今のところご提案にあるようなA5サイズのトラベラーズノートを発売する予定はございません。
その理由を話すと長くなるし、説明しづらいこともあるのでここでは書きませんが、人がそれぞれ様々な事情を抱えているようにトラベラーズノートもまたノートなりにいろいろ事情を抱えていることをお察しいただけたらと思います。ただ将来そんな事情も変わってくる可能性もございますので、絶対に発売しないということでもありません。あわせてご了解いただきたいと思います。
また「プロッター」は同じ会社ではありますが、トラベラーズとは別のチームによって企画・運営されています。基本的はトラベラーズチームはそこには関わっていません。幸い理解のある会社で、それぞれ独自にがんばれよ、という感じで進めさせてもらっています。

Hide:

今年からレギュラーサイズのリフィルを一冊持ち歩くようになりました。出先でちょっと落ち着けたときに思い浮かんだこと、知らなかったことや忘れていたことなどを書き留めるためです。スマホやタブレットでもいいのですが、自分の手で書かないと記憶に残らないので(苦笑)。スケジュールもスマホなどで管理しないでダイアリーで管理しています。入力ではなく手書きで書き込まないと確実に忘れてしまうので(苦笑)。文章を書くのも清書以外はいまでも手書きです。なんでも始まりは手書きでという方は多いと思います。トラベラーズノートのように使い手を適当に放っておいてくれるノートは、僕には必要ですね(笑)。

iijima :

Hideさん、ありがとうございます。
やっぱり手書きには手書きの良さがありますよね。ともするとなくなってしまうかもれない手書きの紙が持つ、創造性や温かさ、情緒を次の世代に伝えていくこも私たちの大切な仕事だと考えています。

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店長のプロフィール

(株)デザインフィルでトラベラーズノートの企画を担当している飯島です。