ストーリー
トラベラーズ ストーリー
トラベラーズノートが伝えたいのは、旅するように毎日を過ごして欲しいということ。
旅人の視点で見つめることで、なにげない日々の出会いや風景の中に新しい発見や感動を見つけることが出来ます。
ここでは、トラベラーズノートを携えて旅をする中で出会ったモノ、コト、ヒトについてのストーリーを綴っています。
010 那須 北温泉

北関東や東北地方には古くから続く温泉宿が多く残っています。
寂れた山奥のなかでひっそりと佇んでいるそんな温泉宿を見ると、とても懐かしい気持ちになります。
少し朽ちた壁や黒光りし歩くとみしみし音がする廊下。そこをぼんやりと照らす裸電球。
風呂場に入ると、長い歳月、温泉の湯がとうとうと流れたせいで、コンクリートの壁や床が茶色、白、黒のまだら模様のようになっています。
古くからの温泉宿は療養のための湯治場として機能していることが多く、そこに長く滞在している老人達の洗濯物が干してある窓や、野菜や食器が置かれた共同炊事場が独特の生活感を漂わせています。
霞がかったような人里離れた山奥の中で、そういった生活感のある風景を見ると仙人の生活のようで下界とかけ離れた別世界にいる気分にさせてくれます。
かつて中国の内陸部に、嫁入り前の娘はお風呂に入り体を清めるという習慣がある村がありました。
そこでは、水が大変貴重なため桶一杯分の穀物と引き換えに同量の水を手に入れ、風呂にためる水を集めたそうです。
また、別の地方では、水を浴び体を洗い流すために10日間歩いて湖まで行かなければならなかった人達もいました。そんな話を聞くと、お湯があふれて際限なく流れ続けている温泉はとても贅沢なものだと気付かされます。
古く寂れた温泉宿に、無尽蔵に流れる湯。慎み深い佇まいの中での贅沢なひとときが温泉の魅力です。
温泉や銭湯のような公衆浴場は日本独特の習慣のように思っていましたが、上記の中国でのエピソードが描かれている映画「こころの湯」では北京の古くから続く銭湯が舞台となっています。
私が以前、韓国のソウルに行ったとき、風呂のないドミトリーに泊まっていたのですが、近くには銭湯があり毎日そこに通っていました。また、トルコではハマムという公共のサウナがどんな小さな街にもあります。
どこも、ただ湯を浴びるためだけでなくそこに住む人たちの憩いの場として機能しています。
旅先でそういった場所を見つけるとつい足を踏み入れ長居をしてしまいます。
写真は、那須連山の山深いところにある「北温泉」で撮影しました。
江戸時代から続く歴史ある温泉宿で、つげ義春の漫画に出てきそうな味わいのある鄙びた雰囲気が魅力です。
歴史を感じさせる木造の風格のある建物、中に入ると骨董品のような調度品や置物をたくさん見ることが出来ます。それらは博物館のなかでガラスケースに収まっているのではなく、今も実際に使われその役割をはたしています。
長い年月の間、日々使われることで、醸し出しされた風合いは人の心を和ませてくれます。
新しいものを取り入れることがポジティブで、古いものを残し続けていくことはネガティブと捉えられがちですが、永く残し、使い続け、次世代に伝えていくことは、実はとてもポジティブで強い意思が必要だと気付かされます。
北温泉
栃木県那須郡那須町湯元151
