ストーリー
トラベラーズ ストーリー
トラベラーズノートが伝えたいのは、旅するように毎日を過ごして欲しいということ。
旅人の視点で見つめることで、なにげない日々の出会いや風景の中に新しい発見や感動を見つけることが出来ます。
ここでは、トラベラーズノートを携えて旅をする中で出会ったモノ、コト、ヒトについてのストーリーを綴っています。
012 パリ オコションドゥレ・カフェ

パリから日本に帰る日。ホテルの部屋で荷造りを終え、出発まで少し時間があったのでカフェへ行くことにしました。
ホテルの前にあるカフェのドアを開けると、女主人が「ボンジュール ムッシュ!」と明るく声をかけてくれます。
それに対し、「ボンジュール マダム」と自然に返事が出来るようになっただけで、少しだけパリが身近になりました。
カウンターの席に座り、「アン カフェ シルブプレ(コーヒーをお願いします)」とガイドブックで覚えたフランス語でコーヒーを注文することにも慣れました。
午前9時過ぎのカフェは、朝食時の混雑が一段落したところでしょうか、客は他に男が一人いるだけで静かな時間が流れています。
夕暮れから夜にかけての賑やかなカフェとはまた違った表情を見せてくれます。
男は黙って壁の一点を見つめながらコーヒーを飲んでいます。これから仕事に向かう前なのか、深刻な顔で考え事をしているようです。
そんな静寂な中にエスプレッソマシンのコーヒーを入れる音が“ジュワー”と店内に響き、しばらくするとコーヒーが出てきました。
私もまた窓から見える街を歩く人たちをぼんやりと眺めながら、パリでの日々を思い返していました。
パリの街を歩いているといたるところでカフェを見つけることが出来ます。旅人達にとってカフェは体を休めコーヒーを飲むだけでなく、街が自分に居場所を与えてくれたように感じさせてくれる場所なのです。
長い歴史を持つパリのカフェはそうやってたくさんの異邦人を受け入れてきました。
フランスの詩人アルチュール・ランボーもまた、パリのカフェを異邦人として訪れ、そして新たな場所に旅立っていった一人です。
1854年、フランス北部の保守的な街シャルルビルで生まれたランボーは、詩人として生きていく場所を求めてパリに向かいました。
当時のカフェは、芸術家や思想家たちが自分達の作品や考えを発表し、討議する場所でもありました。
ランボーもまたその中に身を投じ文学界へのデビューを果しました。
おれは出かけて行った
両手の拳を破れたポケットにつっこんで
おれのマントもまたぼろぼろだった
おれは空の下を歩き、美神(ミューズ)よ
あなたの忠僕だった
「我が放浪」 より アルチュール・ランボー
彼は、その後パリに留まることなくヨーロッパやアフリカをさまよい続けました。旅人として生涯を全うし、最後はエチオピアのハラルで病に倒れ、フランスのマルセイユの病院に移送され、37歳という若さで息を引き取りました。
そんな彼の生き方は、その詩とともに、旅の意味を深く考えさせてくれます。
パリの歴史を感じるアンティークなカフェでは、かつてそこで繰り広げられたたくさんの物語に思いを馳せるのも楽しいひとときです。
Au Cochon de Lait
23, Avenue Corentin Cariou - 75019, Paris, France
