2021年1月18日

B面に恋をして

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レコードで音楽を聴いていた時は、
A面が終わるとレコードをひっくり返し、
B面を再生するという動作が必要だった。
ちゃんと音楽に向き合って聴いていると、
このアルバム片面分、約20分の時間は
張り詰めた緊張を解きほぐすのにちょうど良い
タイミングで、ちょっとした小休止のような
役割を果たしてくれたような気がする。

アーティストがアルバムを制作する際は、
そのことを意識してA面とB面でイメージを
変えることも多かった。

例えば、ビートルズの「アビー・ロード」は、
A面の最後は重々しいギターのリフが後半に
長々と続く「I Want You」で締められると、
B面は一転、さわやかなアルペジオとともに、
「Here Come The Sun」がはじまり、そして
後半の怒涛のようなメドレーへ続いていく。
CDで聴いていて、「I Want You」の後に、
すぐに「Here Come The Sun」が続くと
やっぱりちょっとした違和感を感じる。

牛のジャケットが有名なピンク・フロイドの
「原子心母」は、A面に23分もある大作を1曲、
そしてB面にはバンドメンバーそれぞれが
書き下ろした小品3曲に加え、共作を1曲収録。
これはA面、B面があるからこその構成だった。

僕がCDプレイヤーを手に入れたのは、
たしか高校3年生の時だったけれど、
普段はカセットテープに録音して聴くことが
多かったので、A面、B面という概念は
レコードがなくなってからもしばらくは
残っていたような気がする。
「A面の最後の曲が好きなんだよね」
なんて風に話をすることはよくあったし、
ミックステープを作る時には、B面の1曲目は
けっこう大事なだった。

シングルレコードは、A面とB面との
違いがより明確だった。
A面はメインタイトルとしてヒットを狙った
作品が収録され、B面はオマケのような扱い
をされることが多かった。
CDになってからも、正式にはタイトル曲と
カップリング曲と言われていたけど、
普通はみんなA面の曲、B面の曲と呼んでいた。

B面では、オマケであるがゆえに
ミュージシャンは肩の力を抜いて自由な
スタンスで曲を収録できるということもあって、
それが功を奏し、時にはA面を凌駕するような
名曲や、ミュージシャンの新しい可能性を
引き出すような曲が生まれることがあった。

例えば、ストーン・ローゼズは、B面の曲にも
名曲が多かったけれど、A面の曲をそのまま
逆回転で収録するような、ふざけた曲もあった。
でも、その後アルバムには、別の逆回転した曲に
ボーカルトラックだけ差し替えて、美しい曲に
仕立て、その実験を昇華していたりする。

ミュージシャンがお気に入りの曲をカバーする
のもB面の定番で、いかにもという感じのカバー
ソングから、意外性のある曲もあったりして、
これもファン心をくすぐった。

今では、リマスター盤のボーナストラックや
B面集、さらにはネットや配信で簡単に
これらの曲を聴くことができるけど、
昔はA面の曲は手持ちのアルバムに入っている
のに、B面の曲が聴きたいがためにシングルを
買うなんてこともあった。

シングルのB面曲について調べてみると、
面白いエピソードを見つけることができる。

例えば、ロックンロールの元祖とも言われる
ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツの
「ロック・アラウンド・ザ・クロック」は、
もともと1954年にB面曲としてリリースされた。
その後、映画「暴力教室」に使用されたことで
ヒットし、ロックを世界に広めた名曲として
今でも聴かれている。

日本でも最初B面としてリリースした曲が
A面よりヒットしたということがけっこう
あったようで、「学生街の喫茶店」、
「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」、
「スーダラ節」、「ラヴ・イズ・オーヴァー」
「Sweet Memories」などは、最初はB面の曲
としてリリースされたとのこと。
B面の想定外の曲が、人の心を捉えて
世の中に受け入れられA面よりも愛されていく
というのは、インディーズがメジャーを凌駕
していくようで楽しい。

どちらかと言えば、大通りより裏通り、
陽より陰、メジャーよりインディーズに
心を惹かれてしまいがちな僕は、B面にもまた
強いシンパシーを抱いてしまう。

話は変わるけど、アメリカは大変な状況に
なっていますね。
いろいろあるけど、やっぱり音楽や映画、
文学などアメリカの文化に大きな影響を受け、
今でも憧れを抱く身としては、本来あるべき姿に
収まるのを願わずにはいられません。
1978年にリリースされたエルビス・コステロの
この曲が今こそ心に響きます。

(What's So Funny 'Bout)
Peace, Love and Understanding?

平和と愛、理解し合うことの何がおかしいんだ?

ちなみにこの曲も当初、シングルB面の曲として
リリースされている。

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2021年1月12日

ノートをカスタマイズするということ

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こんなことを言ったら怒られてしまいそう
だけど、僕が大学を卒業して今の会社に
入ることになった動機は不純だった。
最初のきっかけは、たまたま家の近くにある
ということだけで、会社案内をパラパラめくって
見つけた名前も知らない会社の説明会に行って
みようと思ったことだった。
会社を訪ねると、なんとなく雰囲気が
良さそうだったので、そのまま面接を受けた。
すると、早い時期に内定が決まったため、
その後就職活動をする気がなくなってしまい
あっさり就職を決めてしまったのだ。
当時はバブル最盛期だったので、内定の
ハードルは今よりずっと低かった。
もちろん就職活動をする上で、何も考えて
いなかったわけではないんだけど、
なんとなく興味があった出版社は
敷居が高くて入れる気がしなかったし、
好きだった音楽関連の会社は、好き過ぎて
仕事にしないほうがいいかなと思った。
文房具に特別な思い入れはなかったけれど、
もともと何かを書くことは好きだったし、
身近な日常の道具だから仕事もイメージし
やすかったのかもしれない。
ぼんやりだけど、旅が好きだったから海外と
関わる仕事がしたいということと、
ものづくりに関わる仕事をしたいという希望は
あったけど、英語がうまく話せるわけでもないし、
デザインや商品企画の専門的な勉強をしていた
わけでもない。
だけど、この会社だったらもしかしたら、
そういうことができそうな気がした。
(今思えば勘違いも甚だしいのだけど、
若気の至りというやつですね)

文房具というモノを特別に意識するように
なったのは、会社に入ってからだった。
最初は営業部に配属された。
営業の仕事で享受できる数少ない特権のひとつが、
営業用のサンプルとして、自社製品をある程度
自由に使うことができることだった。
ただ、なんとなくそのまま使うのがいやで、
シャープペンのペン先、キャップ、ボディーを
付け替えて、全部違う色にしてみたり、
ボールペンの塗装を紙やすりで削ってはがして、
無垢の金属面を見えるようにして使っていた。
(営業サンプルとしては間違った使い方ですね)
自由に使えるという状況だったから
気軽にそんなことができたのかもしれない。
そうやってノートやペンが持つ魅力と同時に
それらをカスタマイズする楽しみを知った。

営業の仕事を何年か経験したのちに
幸運にも海外と関わる仕事や
ものづくりの仕事に携わることができた。
そしてトラベラーズノートが生まれた。

トラベラーズノートのファーストサンプルが
できた時、まずはそれをカスタマイズしながら
使ってみたのは、必然的な流れだった。
シールになっているカードポケットを
革カバーの内側に貼ったり、
タイのマーケットで見つけたビーズを
ゴムに付けたりしながら、カスタマイズの
楽しさに気づいていった。

トラベラーズノートという名前にしたのは、
もともと好きだった旅をテーマにすることで
いろいろ遊べると思ったからだし、
チェンマイの工房で作ることにこだわったのは
これでチェンマイに行く理由が作れると思った
からで、やっぱり不純な動機だった。

旅をテーマにしたことで、
かつての旅をもう一度振り返えろうと、
引き出しの奥にしまってあった、学生時代の
旅の思い出をひっぱり出してみた。
旅日記が書かれたメモ帳に、旅先で手に入れた
チケットやタバコの包み紙、レシートなど、
すっかり黄ばんでいるそれらの紙を見ていたら
ふと、ノートの表紙に貼ってみようと思った。
イメージは、旅の達人が持っているような、
ホテルやエアラインのステッカーがペタペタと
貼られたスーツケースだった。
できあがったノートを手にしてみると、
それだけで旅の高揚感が鮮やかに蘇り、
日々使うことで旅するような気分で過ごせる
ような気がした。

そんなことをしながら、
カスタマイズすることの意味が深まっていき、
トラベラーズノートにとって大事なコンセプト
になっていった。
そして、トラベラーズノート本体は、
できる限り機能を削ぎ落としシンプルにして、
使い手が自由にいじれる余白を残すようにした。
足りないものは、その分リフィルを用意することで
補っていった。

トラベラーズノートは不完全で未完成のノートだ。
そっけないくらい無骨で無垢な革のノートを
使い手がカスタマイズすることによって、
それぞれの人にとっての理想的なノートになる。

15年前の発売当時、例えばビジネス用の手帳や
システム手帳では、豊富なリフィルを用意して、
カスタマイズできるようなものはあった。
だけど、トラベラーズノートのカスタマイズが
フィーチャーしたかったのは、機能はもちろん
だけどそれ以上に孤独に寄り添った、
親密で個人的な記憶や感情だった。

表紙に、旅の思い出となるようなチケットや
自分の好きなバンドのステッカーを貼ることは、
ノートの機能には特に影響を与えないけれど、
使う心持ちに前向きな変化をもたらせてくれる。
それと同時に、ノート自体が自分自身を反映する
鏡のような存在になってくる。
そんな一見すると無駄とも言えるエモーショナル
なカスタマイズを強く提唱するようなノートは
当時は(今も?)なかったと思う。

トラベラーズノートが不完全で未完成であるのと
同じように、僕らもまた不完全で未完成な存在だ。
日々、不安や失敗ばかりで、理想通りにいかない
ことはたくさんある。
それでも、さまざまな人との出会いや、
カルチャーやアート、環境の変化などの影響を
受けながら、より良き世界を求めて旅するように
毎日を過ごしていく。
僕ら自身が、触れてきた音楽や本、旅の思い出や
出会った人たちの言葉なんかを、ステッカー
みたいに心の内側に貼り付けて、
日々カスタマイズを重ねながら生きているの
かもしれない。

完璧な人間なんてどこにも存在しないように、
トラベラーズノートのカスタマイズも終わる
ことがなく永遠に続いていく。
僕はトラベラーズノートのそんな不完全な
ところと、それでも理想に向かって旅を
続けようと促してくれる前向きなところが
好きだ。

先週末、新春イベントということで、
久しぶりに1日トラベラーズファクトリーにいて
お客様とゆっくり話すことができた。
今回はコロナ禍の影響もあり、いつもとは違う
形で、まさにカスタマイズしての開催となった。
そんな中でも人と会い話をすることの意味とか
大切さを実感できたのも嬉しかった。
これからどうなっていくのか、分からないことも
たくさんあるけど、トラベラーズらしく
カスタマイズしながら、できることを模索して、
楽しいことをやっていきたいと思います。
よろしくおねがいします。


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2021年1月 4日

新春イベント

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トラベラーズファクトリーのオープン以来、
さまざまなイベントを開催しているけど、
1回で終わってしまったものもあるし、
毎年続けて恒例となっているイベントもある。
どのイベントも僕ら自身も楽しんでいることに
変わりはないけれど、続けていくことで、
イベント自体に歴史が積み重なっていき、
また違った楽しさが生まれることもある。

新春イベントもまた、2013年以来
毎年続けているトラベラーズファクトリーの
恒例イベントにひとつ。

最初、新春気分を盛り上げるような
イベントがをしようと考えた時に、
日々トラベラーズファクトリーに足を運んで
いただいているお客様に何か還元できるような
イベントにしようと思った。
さらにタイの古道具屋で手に入れていた、
ヴィンテージのガチャガチャマシンを使う機会を
作りたかったのもあって福引イベントを開催する
ことにした。
また、福引とあわせて、お客様にゆっくりして
いってほしいと思い、コーヒーの振る舞いも
行うことにした。

イベント前のタイへの出張の時に、
マーケットでガチャガチャ用のカプセルを買い、
さらにガチャガチャに使える1バーツ硬貨を
たくさん持って帰った。(同じサイズの1円玉
でもできるけど、気分が大事なので1バーツを
用意した)

最初の新春イベントの一番の景品は、
コーヒーテーブルトリップのロゴをシルク印刷した
トラベラーズノートだった。
これはもともとは、テスト用のサンプルとして
チェンマイの工房に依頼して作ってもらったもので、
コーヒーバッグ用のシルク版を使って
トラベラーズノートの革に印刷している。
メインの景品をどうしようかと考えていた時、
ちょうどそのサンプルがいくつか届いたので、
これはきっと当たったら嬉しいだろうなと思い、
そのまま景品にすることにした。
ちなみにこの試作の結果を踏まえて、その後、
トラベラーズノートのエアポートエディション
はシルク印刷で作ることになった。
その2年後以降は、箔押しのトラベラーズノート
を景品にしたのだけど、これも試作として
流山工場で作ってもらったのが最初で、
その後ステーションエディションが生まれる
きっかけになっている。

また新春イベントの景品の定番とも言える、
New Year ステッカーとカンバッジは、
毎年デザインを変えてこのイベントのために
作っている。

イベントの前日には、当たりくじを
カプセルの中に詰めて(これがけっこう大変)
準備をしたり、景品のパッケージのセットを
したりしながらバタバタとオープンを迎える
まさに手作りのイベントだった。

回を重ねるごとに楽しみにしてくれる方も
増えて忙しくなってきたけど、新しい年を
迎えたスタートとして、景気づけになったし、
トラベラーズファクトリーにお客様が溢れる
姿を見るのは、それだけで嬉しかった。
毎年このイベントでお会いする方も年を
重ねるごとに増えてきて、
「今年もよろしくお願いします」
と年始のご挨拶をする場にもなっていた。
夜になると閑散としてくるのだけど
そんな時間にコーヒーを飲みながらゆっくり
お客様と話をするのも楽しかった。

そうやって9年続けてきたイベントだったから
コロナ禍の中でも、なんとかできる形を模索
しながら考えたのが今年のやり方だった。

オンラインショップを含めた全店で
開催することで中目黒に一極集中しないようにし
毎年活躍してくれているガチャガチャマシンは
今年は休んでもらって、三角くじを製作した。
さらに、コーヒーの振る舞いも中止にして、
混雑時には整理券を配布することで、
密にならないようにする。
ずっと続けてきたイベントだから、とにかく
こんな中でもできる形を作りたかった。

あの賑わいが見ることができないのも、
コーヒーを飲みながらお話しできないのも
残念ではあるけれど、よりたくさんの方々に
喜んでもらいたいと、景品はいつも以上に
用意している。
コーヒーの振る舞い、来年、また復活
できればいいな。

まずは1月2日から京都でスタートしていて、
皆さんとても楽しんでいただいているようで、
嬉しく思うのと同時にほっと胸を
なでおろしている。

今週はステーション、中目黒、エアポート、
さらにオンラインショップでも開催するので、
ぜひこちらも楽しみにしていただけたら
嬉しいです。

新春イベントとあわせて開催している、
コーヒーテーブルトリップもオープン以来
続いている恒例のイベント。
毎年、アアルトコーヒーの豆を9種類用意
してもらってコーヒー豆専門店に負けない
ようなラインアップで展開している。
今年はさらに、アアルトコーヒー庄野さんの
友人でもある京都のかもがわカフェの
ハウスブレンドも加え、10種類の豆を
販売しています。

このコーヒーイベントも例年ならば、
メインイベントとしてアアルトコーヒーの
庄野さんに来ていただいてカフェイベントを
開催するのだけど、今年はまだその予定を
立てることができないでいる。
今年中にはなんとかできるといいな。

ちなみに、その代わりという訳ではないの
ですが、今回はコーヒーとともに楽しみたい
音楽と本のリストをこちらで紹介しています。
こちらも楽しんでいただけると嬉しいです。


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2021年1月 1日

Hello, 2021

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皆さま、あけましておめでとうございます。
2021年になりました。

年末の休みは、ふと思い立ち、
東京都内のホテルに泊まって過ごしました。
ひとりで過ごす分には感染リスクもそれほど
高くないだろうし、なにより価格がびっくり
するほど安い。

ネットでホテルを予約して、家を出たら
自転車に乗って、ホテルへ向かう。
途中本屋を覗いたり、喫茶店でコーヒーを
飲んだりしながら、のんびり走って、
夕方になってやっとホテルに着く。
チェックインしたらまずは大浴場へ行き、
たっぷりお風呂とサウナを楽しむ。
そして、湯上りの火照った体を冷ますように
散歩がてら街を歩き、飾らないカレー屋で
ご飯を食べる。
ホテルの部屋に戻るとテレビは付けずに
iPhoneで音楽を聴きながら本を読んだり、
ノートに向かったりして過ごす。

そんな時間が楽しくて、ホテル滞在中に
次のホテルを予約し続けて、神宮前から神田、
上野と3泊もしてしまった。
(別に家に居づらいわけじゃないですよ)

もちろん本当ならどこか海外の街を
旅できたら最高なんだろうけど、
自分が暮らす場所でもある東京をこんな風に
のんびり旅するのも今だからこそできる贅沢
かもしれないな、なんて思ったりもする。
旅をするように毎日を過ごし、
日々の暮らしを続けるように旅をする。
まさにそれを体感するような旅だった。

ご多分に洩れずトラベラーズにとっても
2020年はなかなか厳しい1年だった。
正直に言えば、今年だってそう簡単には
いかないかもしれない。
だけど、まだ旅をやめる気にはなれないし、
やめない限り旅は続いていく。
ここではないどこか遠くへ行きたいという
旅の初期衝動はまだ消え去っていないし、
旅の好奇心があり、たまに旅の喜びを
感じることができれば大丈夫。

旅に出ていれば、体調が悪くなって
停滞する時だってあるし、予定通りに
目的地にたどり着けないことだってある。
後から振り返れば、そんなトラブルもまた、
楽しい思い出になる。
旅には勝ちも負けもないし、優劣もない。
成功も失敗も、目的地すらなかったりする。
ただ自分が良い旅だと思えればそれでいい。

年末のこと。
昨年出会いとてもお世話になったある方々に、
感謝の気持ちをこめて、ちょっと特別なノートを
作って贈ることにした。
直接手渡してほしいとスタッフに依頼したら、
その瞬間を撮影した動画をメールで送ってくれた。

まずカードのメッセージをじっくり読む。
そして興奮した面持ちでパッケージを開けて
ノートを手に取ると、「オーマイガー、
オーマイガー、オーマイガー!」と3連発で
叫んだり、子供みたいにぴょんぴょん
飛び跳ねたりして喜んでいる。

そんな姿を眺め、嬉しくなったのと同時に、
僕らが誰かに喜んでもらえる一番得意なことは
やっぱりノートなんだとあらためて思うことが
できた。
ノートにちょっとした魔法を施すことで、
その人にとって無限の価値を持った
かけがえのない特別なノートになる。
そのノートを手にすれば、新しい旅がはじまり、
旅人のように毎日を過ごすことができる。
そんなノートに共感し喜んでいただける方が
いたから、僕らは今まで旅ができたし、
これからも旅を続けることができる。

トラベラーズノートを手にはじめて旅をした時
のあの高揚感はいまだに失われることもなく
心の奥に染み付いている。
好奇心も旅の喜びもまだ尽きることは
なさそうだし、ともに分かち合う仲間もいる。

あらためてトラベラーズノートを手にして
くれているすべての方々に感謝の気持ちで
いっぱいです。
そして、少しでも皆さまに旅の喜びや好奇心を
感じてもらえるようなことができたら嬉しいです。

そんなわけで、トラベラーズファクトリーでは
スペシャルなノートをプレゼントする企画、
新春イベントを開催します。
詳しくはこちらをご覧いただきたいのですが、
まずは1月2日より京都で、その後
ステーション、中目黒、エアポート、
そしてオンラインショップでも開催します。
今回は全店で開催ということで、今までより
たくさんの景品をご用意していますのでぜひ。

2021年もトラベラーズノートをよろしく
お願いします。


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2020年12月21日

少年マガジンとクリスマスツリー

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ノートバイキングイベントで京都へ行った際、
月に一度しかない開催日とたまたま重なっていた
ということで、平安蚤の市に立ち寄ってみた。
平安神宮前の広場に、たくさんの露店が連なり、
骨董品からガラクタまでさまざまな古いものが
玉石混淆となって並んでいて、眺めているだけで
ワクワクする。
その日は平日の午前中ということがあってか、
人もそれほど多くもなく、ゆったりした雰囲気で
宝探しをするように買い物を楽しんだ。

1969年11月9日発行の「週間少年マガジン」は、
そこで手に入れたもののひとつ。
1969年は自分が生まれた年でもあるし、
「巨人の星」と「あしたのジョー」が連載中で
(巨人の星は消える魔球、大リーグボール2号の
公式試合デビュー、あしたのジョーは矢吹丈と
力石徹との試合がいよいよマッチメイクされる
というシーンだった)、他の連載陣も永井豪に
石森章太郎、ジョージ秋山などそうそうたる
顔ぶれ、さらに状態もきれいで、
値段も思っていたより安かったこともあって、
迷わず手に入れることにした。
巨匠たちの漫画にはもちろん興味があったけど、
実はそれ以上に惹かれたのは、けっこう多くの
ページが割かれていた読み物のコーナーだった。

例えば「<全計画>世界の宇宙開発」。
発行時はアポロ11号の月面着陸の直後で
宇宙開発への夢と希望が溢れていた頃。
イラストとともに未来の宇宙開発計画を
解説している。
記事によると、1982年にはロケット発着場や
原子力発電所がある宇宙基地が月面に作られ
稼働していることになっている。
だけど、月面基地のみならずここで書かれている
すべての計画は2020年になってもいまだに
実現されていない。
やはりそう簡単に計画通りにはいかないもの
だなと、感慨深くなったりして、2020年の今
あらためて読むと、当時とはまた違った
面白さがあるのに気づく。

他にも「プロ野球速報:やったり金田400勝」、
「SF怪奇劇場:恐怖のブーメラン怪人」、
「雑学シリーズ:へんな学校<風呂学入門>」、
「星一徹のモーレツ人生相談」などなど、
連載漫画に劣らず量、質ともに充実している。
(すぐにちゃぶ台をひっくり返す星一徹なんて
人生相談に最も向いてなさそうだけど、
ここでは意外にやさしく丁寧に答えている)

そして、巻頭カラー特集は「ロボット帝国」。
アシモフなどの古典的なSF小説の挿絵を紹介
しながら、ロボットが人間を支配していく
不穏な未来を紹介している。
おどろおどろしいロボットのイラストに、
「ロボットにとらえられた人間の悲鳴が地上を
おおった」なんてテキストが添えられている。
そんな紙面を興味深く眺めながら、そういえば、
少年時代、この手のオカルトチックな怪奇ものや、
ディストピアな未来予測をけっこう読み漁って
いたのを思いだした。

今現在の状況も描きようによっては
かなり悲惨なディストピアとして伝えることが
できるんだろうな。ふとそんなことを思った。

「2020年、強い感染力を持つ疫病が世界中に
広がり、多くの死者がでた。
世界中の大都市では外出禁止令が発令され、
ずっと家に閉じこもり、テレビ電話を使って
仕事をすることが奨励された。
疫病不安もあって、世界各地で価値観や人種の
違いによる分断が深まり、罵り合いが至る所で
発生した」
そして、劇画調のタッチで、テレビ電話で仕事
をしている姿に、デモや暴動などのシーンが
おどろおどろしく描かれている。

少年時代にそんな紙面を見たら、
未来に暗澹たる気持ちになりそうだけど、
そんな世界でも楽しいことだってあるし、
人と触れ合い理解しあうことだってできるし、
ポジティブな変化を期待することだってできる
ということも教えてあげたい。

「2021年、ワクチンや治療方法、予防方法の
確立、集団免疫の獲得などにより、
疫病は少しずつその勢力を弱めていった。
だんだん世界旅行もできるようになり、
経済も復調、格差も縮んでいった。
疫病流行時の反省から、世界中で地球環境や
人権への意識が高まり、疫病流行をきっかけに
急速に発達した技術を活かしながら、同時に
それぞれが受け継いできた文化を見直し、
互いに尊重できるより良き世界を作ろうと
いう機運が高まっていった」

次のページをめくると、こんな未来が描かれて
いればいいなと思うけど、楽観的すぎるかな。

蚤の市では、他にもいろいろ練習用の
タイプライターや錆びついたツールボックス
などに加え、クリスマスツリーを手に入れた。
1950、60年代に輸出用として作られた
デッドストックで、味のあるデザインの箱に
収まり、ツリーにはMade In Japanと印字された
タグが付いている。

トラベラーズファクトリー京都に着いて、
ツリーを飾り付けると、箱とともにライブラリー
スペースに置いた。

もうすぐクリスマスですね。
今年はいろいろ大変だったと思いますが、
皆様にとって素敵なクリスマスになりますように。
そして2021年が素晴らしい1年でありますように。


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2020年12月14日

夢のような2日間

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イベントが終わった日の翌日は日曜日。
京都駅前のホテルをチェックアウトすると、
サウナ好きのFさんが教えてくれた銭湯まで、
歩いて行ってみることにした。
久しぶりのイベントでたまった疲れをいやそうと、
昼間からのんびりサウナに入っていると、
すっかり満たされたような気分になって、
もう後は喫茶店に行ってコーヒーでも飲んだら、
適当な時間に新幹線に乗って帰ろうかな、
なんてことを思った。

夢のような2日間だったな。
サウナに入っていると、イベントの時のことが
しみじみと頭に浮かんできた。
イベントの開催自体が久しぶりだったし、
場所がエースホテルということもあって、
今年は一度も行くことができなかった海外での
イベントのような気分を味わうこともできた。

エースホテルでは、これまでロンドン、
ニューヨーク、ロサンゼルスでノートバイキング
を開催してきた。
そのイベントで、何よりも感動したのは、
スタッフたちの気持ち良さだった。
高級ホテルのような格式ばった礼儀作法ではなく、
フレンドリーでフランクでありながら、同時に
親密な温かさを感じさせてくれる心がこもった
ホスピタリティーこそがエースホテルの大きな魅力
のひとつだけど、イベントを開催する際にも
それを大いに体感することができた。

さらに、僕らを同じ楽しみを共有する同志のように
接してくれて、自分たちが大好きな音楽や舞台を
盛り上げるように、みんなで一丸となってノート作り
のイベントを楽しみながら盛り上げてくれた。

イベント期間中、僕らはエースホテルの一員に
なったような気分になり、同時にエースホテルの
スタッフもトラベラーズチームの一員になってくれて
いるような気分を味わいながら、お客様を迎えること
ができたのはとても嬉しい体験だった。

今回、京都でノートバイキングを開催することに
なったのも、アメリカでのイベントの話を聞いて
いたエースホテル京都のイベント責任者のマギーさん
から、ぜひそれを京都でと、僕らに声を掛けてくれた
ことがきっかけだった。
その過程で、マギーさんはHinaさんと僕の絵を
ノートの表紙にしようと提言してくれた。
さらにコロナ禍で密にならないように
天井が高くて広々としているロビーのスペースを
快くイベントのために提供してくれ、
入口できちんと一人一人、検温と消毒をしながら
運営しているエースホテルと一緒だからこそ、
この時期においても開催することができた
ということもあった。

イベントでは、Hinaさんにマギーさんをはじめ
エースホテルのスタッフは終始イベントのことを
気にかけ、何度も会場に足を運んでくれたし、
本当に楽しそうにノートを作ってくれた。
そんな姿にトラベラーズファクトリー京都の
スタッフに僕らもフレンドリーな雰囲気の中で、
たくさんのお客様を迎えられることができて、
ほんとうに楽しい時間を過ごすことができた。

「これはMD用紙といって、万年筆でも
鉛筆でもとにかくたくさん書きたい方には
おすすめの紙ですよ」
「いろいろな紙が入っていると、日記を
書いていても、その日の紙の色や質感で気分が
変わるから楽しいですよ」
なんて話をしながらお客様が真剣に紙を選ぶ姿を
見ているだけでも楽しいし、最後にリング職人が
綴じてノートが完成した時の嬉しそうな姿を
見ると、自分たちの仕事が多少なりともお客様に
感動や喜びを与えられているのを実感できて、
今までいろいろあったけどがんばってきて
良かったなあと素直に喜ぶことができた。

イベント初日は、はじめてエースホテル京都に
宿泊した。
部屋には、ニューヨークやロサンゼルスの
エースホテルと同じようにレコードプレイヤーが
置かれているので、トラベラーズファクトリーから
展示用のレコードを何枚か持ち込んで聴いた。
だけど京都が他のエースと違うのは、
柚木沙弥郎氏のアートワークが飾られていたり、
ミナ ペルホネンのカーテンに加えて、
MD用紙を使って流山工場で作られたゲスト用
の便箋やメモパッドが置かれていること。
既に何度かサンプルを見てはいたけれど、
あらためて部屋に置かれている姿を見ると、
今までは遠くの友人のような存在だったエース
ホテルが、ご近所の深い付き合いをする仲間に
なったような気分になり、なんだか海外深い
気持ちになった、

「お客さんもたくさん来て喜んでくれたし、
私たちも楽しかったし、ほんとうに最高の
イベントだったね」
片づけが終わり、トラベラーズファクトリーで
みんなで記念撮影をすると、マギーさんと
Hinaさんがそう言ってくれた。

「次はもっと楽しいイベントにしましょう!」
僕も嬉しくなってそう答えた。

さて、そんなことを思いだしながら、
サウナを出ると、喫茶店に入り、
コーヒーを飲みながら、トラベラーズノート
にイベントのことを描いてみた。
やっぱりイベントは楽しいな。
まだコロナ渦の終わりは見えないけど、
そんな中でもできることを少しずつでも
増やしていきたいな。
そんなことを想いながら絵を描いた。


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2020年12月 7日

今年もあと1カ月足らず

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12月になり今年も残すところ1カ月足らず。
きっと多くの人が同じことを思うのだろうけど、
僕らにとっても今年は大変な1年だったし、
来年はいろいろ落ち着いて、少しでもいい方向に
進んでいけばいいなと思っている。

先週、海外の仲間たちに送るクリスマスカードに
メッセージを書いた。
香港のパトリックやチェンマイの工房のオーナー
など、カードの宛名を見ながら、いつもだったら
年に一度は会う人ばかりなのに、今年は誰にも
会えなかったな、としみじみ思った。
昨年の今頃は、「トラベラーズファクトリー京都が
オープンするから来年は絶対に日本に行くからね!」
とたくさんの方が言ってくれていたけど、
当然その約束は果たされないまま今年が終わろう
としている。
「来年こそ、京都に来てくださいね」とか
「来年はそっちに行くからね」とか、
そんな言葉を僕はカードに書きながら、
来年はそんなことが本当に実現できるのだろうか、
と頭の中では現実感を伴わない夢物語のようにも
感じていた。

いつになったらまた異国の地を訪れることが
できるのだろうか。
空港に降り立った時に感じる、あの旅の高揚感を
また味わうことができるのだろうか。
例えば、タイでは南国特有のねっとりと肌に
まとわりつく湿気と果物のような甘い香りが漂い、
ロサンゼルスではカラッと乾いた空気の中を
心地よい微風が流れる。
そんな空気を感じた瞬間、ああやって来たなあ
と一気に旅の気分が盛り上がり心躍る。

そして街へ出た時に感じる、
まるで物語の舞台に足を踏み入れたような感覚。
例えば、ニューヨークだったら、
ベーグルやホットドッグをほおばり、
5番街にタイムズスクエア―、ブルックリン、
MOMAに自然史博物館、セントラルパーク、
なんて場所を歩いているだけで、気分は映画や
小説の登場人物になることができて、
ジョン・レノンやルー・リードの曲が頭の中に
リフレインする。

香港だったら、街を歩いていて早口の広東語が
聴こえてくるだけで、ジャッキー・チェンに
ブルース・リーやミスターBooの映画の中に
紛れ込んでしまったような気分になれる。
ふと、もしここで自分が生まれ育っていたら
どんな人生を送っていたのだろうかとか、
このままここで暮らすことになったら
どんな暮らしになるのだろうか、
なんてことを考えてみたりする。

夢に描いていた風景が昔の記憶を呼び起こし、
好奇心を刺激する新しい発見に満ち溢れ、
旅人であることを身に染みて実感できる。

そんな異国への旅が2021年になったら
また実現できるのかは分からないけど、
トラベラーズとしては、旅の喜びとか楽しさは
いつも忘れずに心に持ち続けていたいな。

トラベラーズファクトリーのサイトで
お知らせしたように、12月11日、12日に
エースホテル京都で、今年最初で最後の
ノートバイキングを開催します。

今年は2月のカフェイベントを最後に
トラベラーズファクトリーとしても
リアルのイベントは行っていないし、
当然海外でのイベントも開催していない。
今もコロナ禍が続く中で、リスクを考えれば
イベントは控えるという選択肢は当然ある
だろうけど、エースホテルと一緒に考えた
結果、開催をすることを決めました。

コロナ禍の中でホテル業を営んでいる
エースホテルのお力を借りながら、
万全の感染予防対策を行い、こんな時での
イベントの在り方、楽しみ方を探していきたい
と考えています。

この状態がいつまで続くのかは分からないけど、
そのこととは関係なく、私たちの生活は続いて
いきます。
感染には気を付けながらも、生業を続け、
食い扶持を得て、ささやかな楽しみや生きがい
を失わずに暮らしていく必要があります。
こんな時だからこそ、できるイベントになれば
と思っています。
参加者の方にはご不便をかけることもあるとは
思いますし、大きな声で、ぜひ来てくださいとは
言いづらいですが、皆さんと安心して楽しめる
時間を共有できたら嬉しいと思っています。


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2020年11月30日

気をつけて町へ出る

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例年だったら秋から冬にかけては、
出張やイベントがあったりして土日も
バタバタ動き回っていることが多いけれど、
今年はゆっくり過ごせる日も多い。

そんな休日に少しでも旅気分を味わいたいと、
最近よく自転車でちょっとした遠出をする。
遠出といっても距離は往復30から40キロ程度。
日帰り温泉や銭湯を目的地にして、
途中に喫茶店などで休みながら、ゆっくり走る。

この日の目的地は、練馬の日帰り温泉施設。
グーグルマップで調べると家からは19キロある。
往復38キロだから、ちょうど良い距離だ。
あえていつもの通勤ルートとは違う道を選んだ。
上野から後楽園、目白を抜けると、だんだんと
下町の風情を感じる街並みが見えてきた。
目的地まではあと少しだけど、通りがかりに
懐かしい佇まいの喫茶店を見つけたので、
ひと休みすることにする。
薄暗い店内に入ると、赤いビニールレザーが
貼られたアールデコ調の味のある椅子に座る。
うん、良い感じの雰囲気だ。
寒くなってきたこの季節には、温かい店内と
一杯のコーヒーがありがたい。
かじかんだ手をカップで温めながら少し苦めの
コーヒーをゆっくり飲んだ。

喫茶店を出て少し進むと、
トキワ荘マンガミュージアムの看板を見つけた。
その存在は知っていたけど、この場所にあるとは
思っていなかった。そんな偶然の出会いに喜び、
立ち寄ってみることにした。
トキワ荘と言えば、かつて手塚治虫が住んでいて、
彼を慕い藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫ら
の著名な漫画家たちが上京とともにそこに住み、
漫画の聖地とも呼ばれるようなった場所だ。
僕も少年時代には漫画家になることに憧れていたし、
そんなこともあって藤子不二雄Aの自伝的漫画
「まんが道」の熱心な愛読者でもあったから、
トキワ荘といえばそれなりに思い入れもある。

感染対策のためか、入り口で名前と連絡先を
書くと、ドキドキしながら階段を上がった。
階段は、当時の木造アパートだった時のものが
ミシミシと鳴る音まで忠実に再現されている。
二階に上がり最初に見えるのは、共同の台所。
テーブルには雑多に並ぶビールや焼酎のビンと
ともに食べかけのラーメンも置かれている。
よく見てみるとそのどんぶりに「まつば」の
文字を見つけた。
松葉と言えば「まんが道」の主人公、満賀道雄が
藤子F不二雄がモデルの才野茂とともに富山から
上京して食べて「東京のラーメンは一味違うな」
と言わしめ、さらにその後も何度も登場する
トキワ荘ご用達のラーメン屋だ。
奥には、風呂屋に行く金がなかった赤塚不二夫が
夜中に裸で体を洗っていた流し台もある。

その隣は、満賀道雄たちから優しい先輩と慕われ
リーダー的存在だった寺田ヒロオ氏の部屋。
4畳半の狭い部屋には、ブラウン管の白黒テレビに
机の上には書きかけの原稿もあったりして、
さらに気分は盛り上がる。

トキワ荘の一階では企画展として寺田ヒロオ展を
開催していたのでこちらも見学する。
寺田ヒロオは、「まんが道」によく登場するので、
名前は知っていたけれど、作品を読んだことは
一度もなかった。
展示を見ると、寺田ヒロオは野球漫画で
人気漫画家として成功するけれど、その後
劇画時代になると時代遅れになってしまい、
一線を退らざるを得なくなる。
それでも時代に迎合することを拒み、
児童漫画にこだわり続けた気骨の漫画家だった
ということがわかった。
滞在したのは30分くらいだったけど、満足感で
満たされながらトキワ荘を出た。
「まんが道」をまた読み返えさないとだな。

その後も、素敵レコードショップを見つけて、
立ち寄ったりしながら、やっと温泉施設に到着。

何度かサウナに入ってから、露天風呂に浸かって
いると、すっかり旅先にいるような気分になった。

感染も心配だけど、気をつけながら、自転車で
町を巡って少しでも旅気分を味わうのも大切。
だって、僕らにとって旅は、生きていく糧みたいな
ものだもんね。

来週は千葉の方にでも足を伸ばしてみようかな。


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2020年11月24日

At Tokyo Station

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4月からはじめた自転車通勤はまだ継続中で、
寒くなったらオフシーズンということで休みに
しようと思っているけれど、11月後半になっても
暖かい日が多く、今も週の半分くらいは自転車で
通っている。

夜にオフィスがある中目黒を出て、
六本木から皇居までの長い坂道を下り、
東京駅が見えてくると、残りはあと半分くらい。
この日は、ちょっとした用があったので、
東京駅の前に自転車を止めて、閉店ぎりぎりの
タイミングで、トラベラーズファクトリー
ステーションに立ち寄る。
店長から頼まれていた、クリスマスバージョンの
プレイリストを入れたiPodを持ってきたのだ。

トラベラーズファクトリーのクリスマス用BGMは、
9年前のオープンの年に作ったプレイリストを毎年
更新しながら使っている。
最初は、それまでは自分からクリスマスソングを
聴くことなんてほとんどなかったから、個人的に
クリスマス向きかなと思う曲を集めて作ってみた。
だけど、そうやってできあがったプレイリストを
客観的に聴いてみると、クリスマスデートに
女の子とロマンチックな気分になるために作った
下心たっぷりのミックステープみたいで、
(残念ながらそんな経験はないけど...)
その後、こつこつクリスマスソングを集めながら
リストを更新し、今にいたっている。
あらためて聴いてみると、クリスマスソングにも
いいなぁと思う曲が多いことにも気づいて、
食わず嫌いだった食べ物をふとしたきっかけで
食べてみたら、意外と美味しいことに気づいて、
いろいろな店を巡りその食べ物を食べ歩くように、
さまざまなアーティストがリリースした
クリスマスソングを探して聴くようになった。

毎年この季節にしか聴かない曲があるというのも、
素敵なことだと思うし、プレイリストを聴くと、
ロマンチックだったり、物憂げで感傷的だったり、
心がスッとするような神聖な気分だったり、
それらが複雑に入り混じったクリスマスの特有の
感覚がふわっと心の中にわいてくる。
とういうことで、そんな感覚を呼び起こしてくれる
個人的クリスマスソングベスト5を。

1. Christmas Wish / NRBQ
2. Fairytale Of New York / The Pogues
3. Christmas Time Is Here / Vince Guaraldi Trio
4. Just Like Christmas / Low
5. River / Joni Mitchell
(誰もが知っているクリスマスのスタンダード
ナンバーやカバーは外して、オリジナルの曲から
選びました)

さて、スタッフにiPodを渡して念のため音が
出るかチェックすると、プレイリストの最初の曲、
トム・ウェイツの「Ruby Arms」が流れてきた。
例のおどろおどろしい歌い方で「クリスマスまで
にはきっとお前を抱いてくれるやつが現れるよ」
なんて言う、キザな別れの歌だ。(名曲です)
「じゃあ、よろしくね」駅前に止めた自転車が
気になっていたので、僕も早々に別れた。

東京駅を出ると、最近はじまった丸の内の
イルミネーションが見えたので近くまで行き、
道路の脇に自転車を止めた。
そして、iPhoneにも入れておいたクリスマスの
プレイリストを聴きながら、しばらくひとりで
イルミネーションを眺めた。

ブランドショップが並ぶ道の両脇の街路樹に、
満開の桜のように灯されたイルミネーションは
きれいだけど、ほとんどの店が閉まり、
歩く人も少なくどこか寂しげな印象を与えた。
イヤフォンからは、「傷ついた天使」と評される
ブライト・アイズのコナー・オバーストが
世界中のメランコリーを代弁しているかのように
歌う「ブルー・クリスマス」が流れてくる。
満点の星の下、誰もいない北極圏の大海の上を
独りで浮かんで漂うラッコになったような気分で、
僕もメランコリーの海の上を漂っていた。
「alone(独り)の語源は、all one(みんなひとり)
なんだ」最近見た映画のセリフを思い出した。

ふと携帯をチェックすると、
「遅い時間で申し訳ないけど確認したいことが
あるのですが...」と京都からのメッセージ。
実は来月に開催しようと計画している京都での
イベントのことで、ちょっとしたトラブルがあって、
そのことで聞きたいことがあるとのこと。
ひとことで説明できない内容だったので、
とりあえずiPhoneでイルミネーションの写真を
撮ってメールで送ると、リュックを肩からおろして
ベンチに座ってから電話をいれた。

「あれはね...」
何の考えもなく電話をしたのだけど、
過去の体験を俯瞰し、記憶を辿りながら、
抽象的なイメージを言葉に置き換えていくことで、
ぼんやりと考えていたことが明確になっていく
ことに気づいた。
電話の向こうでは、もう他に誰もいない夜の
薄暗い店内で静かに耳を傾けているのだろうか。
言葉として発するにつれて、少しずつ霧が晴れる
ように、向こう側の風景が姿を表してくるような
気がした。

「きっとうまくいくよ」
なんの根拠もないのに、それが明白な事実である
かのように僕は言った。

京都のイベント。
まだ先行きが不透明なことも多いし、
詰めていかなければこともあるけど、なんとか
実現したいな。
その日はうまくいかなかないことに
ちょっとした心配事もあったんだけど、
電話を切ると、少し晴れやかな気分になって、
また自転車に乗った。
イヤフォンからは、NRBQの「Christmas Wish」
が聴こえてきた。
「メリークリスマス、メリークリスマス
1年間のすべての夢が実現する時だよね」

いろんなことがうまくいくといいな。


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2020年11月16日

ミックステープ

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「今度、京都に行くことにしたので、
トラベラーズファクトリー京都にも訪問しようと
考えているのですが、そこで聴くおすすめの曲が
ありましたら教えていただけないでしょうか。
その音楽を聴きながらお店で本でも読めればと
思っております」

こんなメールが、トラベラーズチーム海外担当の
一人から届いた。
そもそも京都の店内にはBGMも流れているし、
どういう意図でリクエストしているんだろうと、
仕事の用事で彼に電話したついでに聞いてみたら、
他意はなく文面通りの意味だと言うので、
「じゃあ、何曲かメールで送るね」と答えた。

だけど音楽好きにとって、曲を選んで紹介する
ということは、嬉しいことであるのと同時に、
なかなか重たい行為でもある。
音楽オタクのレコード屋店主が主人公の小説
『ハイ・フィデリティ』(ジョン・キューザック
主演で映画にもなっている)のある場面を思い出す。

主人公がローカル雑誌の取材を受けることになり、
あなたにとってのトップ5の曲を教えてほしいと
聞かれる。
主人公はさんざん悩んだ末に5つの曲名を伝える。
インタビューアーはやっと決まったと呆れながら
曲名をメモすると、早く進めようと別の質問をする。
だけど、主人公はその質問を無視して、
「やっぱりベスト1はこの曲だ」とか
「2位はこれにして、3位以下の曲はひとつずつ
順位を下げて、最後の曲は外してくれ」
とか言って何度もメモを書き換えさせる。
いつまでたっても主人公はベスト5を決めきれず、
インタビューアーはすっかり困惑する。
取材が終わってからも、頭の中はベスト5のことで
いっぱいで、あの曲を忘れていたと、夜中に
インタビューアーに電話をしてさらに呆れさせる。

主人公の煮え切らない優柔不断な性格を描いた
エピソードとして読むこともできるけど、
もしもあなたが音楽好きであれば、主人公の
決めきれない気持ちがきっとよく分かると思う。
ベスト5の曲なんて聞かれても、どの曲を選ぶかで、
自分の音楽的な知識やセンスはもちろん、
性格や価値観、これまでの生き方に、世界に対峙
する姿勢すらも現れてしまうような気がして、
そうやすやすとは決められないものなのだ。

だけど音楽好きにとって、なにかのテーマのもと
曲を選ぶのは、楽しい行為でもある。
女の子とはじめてのドライブなんて機会があれば、
流れる時間やタイミングなんかもイメージしながら、
何度もレコードをターンテーブルにのせて、
緊張しながらカセットデッキの一時停止ボタンを
押してドライブ用のミックステープを作ったし、
女の子から「おすすめの曲を教えて」なんて
言われたら、相手のことを想像しながら曲を選び、
90分のカセットテープに録音し、インデックスに
手書きでアーティスト名と曲名を書いて、さらに
それぞれの曲にまつわるエピソードや思い入れを
紙に書いて、ライナーノーツみたいに折り込んで、
テープに添えて贈ったりしていた。

そうやって一生懸命作ったミックステープが、
努力した分だけの効果をもたらせてくれたことは
ほとんどなかったような気がするけど、
曲を選んでテープに録音している時間は、
無地のキャンバスに何度も色を塗り重ねながら、
ひとつの世界観を持った抽象画を描いてくようで
なにより楽しいし、完成したらとても充実した
気持ちになれた。

さて、トラベラーズファクトリー京都で聴くべき
曲は、素直に京都の店内に飾ってあるレコードや
フレームにちなんだ曲から、今までこのブログや
トラベラーズタイムズで紹介した曲を90分テープに
入る分くらい選び、さらにそれぞれの曲にまつわる
エピソードをくどくど綴って、メールで送った。

その返事は、僕の曲への想い入れから比べると、
かなりあっさりしたものだったけど、
こと音楽に対しては、昔からこちらの熱量に
見合うだけの反応が返ってくることはほとんど
なかったので、別にがっかりもしなかった。
それより送った曲のプレイリストをあらためて
自分で聴いてみると、何度も聴いている曲なのに、
また新鮮な気持ちで感動をすることができて、
それですべて報われたような気分になった。

お店を作るということは、ミックステープを作る
ことに似ているのかもしれないな。
プレイリストを聴きながらそんなことを思った。

トラベラーズファクトリーに並ぶ商品は、
チームみんなで、この場所に足を運んでくれる人の
ことを思いながら、それぞれの思い入れがたっぷり
詰まった商品を選ぶ。
商品が並ぶ場所は、曲順を決めるように曲同士の
関係性や全体の流れを考えながら決める。
そして、サイトにはそんな思い入れやエピソードを
ライナーノーツのように綴る。

仮に僕らの思い入れがぜんぶ伝わらなくても、
空間にいるだけで僕ら自身が幸せな気分になれるし、
お客さまと共感できる瞬間に立ち会うことが
できたら、もうそれだけでそれまでの苦労が
報われたような気分になれる。

意識しないで聴き流していても心地よく、
でも意識して耳をそば立てて聴いてみると
その世界に引き込まれるような魅力がある。
BGMも空間もそうありたいと思っている。


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店長のプロフィール

(株)デザインフィルでトラベラーズノートの企画を担当している飯島です。