やっぱり旅はいいね
北海道の旅を終えて、東京に帰ってくると
翌日からバタバタと日々の仕事の翻弄されて、
旅の余韻も感じる間も無くあっという間に
日常が戻ってくる。
あれから一週間も経たないのに楽しかった旅が
ずいぶん昔のことのように感じられてしまう。
旅が終わってから最初の休日。
一番茶を飲み終えた急須に再びお湯を入れて、
少し薄くなったお茶をしみじみ味わうように、
ノートに向かって再び記憶の中で旅を反芻する。
UNWIND HOTEL & BAR小樽でのイベントが無事
終わり、撤収を済ませてホテルを出ると、
スタッフの方がおすすめしてくれた、なると本店で
イベントの打ち上げを兼ねて夕食を食べた。
皮はパリパリで中はジューシーな小樽名物、若鶏の
半身揚げをかじりながら、ビールで乾杯する。
お腹を満たすと、小樽駅まで歩き、そこから電車で
札幌まで移動する。
小樽が地元でもあるUNWIND HOTELのAさんに
小樽のおすすめの場所を聞くいたら、
「札幌から電車に乗って小樽に向かっていくと、
海が見えてきて海岸ぎりぎりのところを電車が
走っていくんです。それを見ると、ああ、小樽に
帰ってきたんだ、としみじみ思うんですよ」
と言っていたのを思い出して、車窓を見たけれど、
外はまるですべての電気を消したように真っ暗で
何も見えない。
乗る人も少なくガランとした静かな札幌行きの
鈍行列車に乗っていると、旅情のさびしさみたいな
感覚が胸に湧き上がってきた。
そういえば、Aさんと一緒にずっとイベントの
アテンドをしてくれたMさんは、毎日、札幌が
電車で小樽まで通っていると言っていたから、
彼女は毎日この電車に乗っているんだなと思った。
AさんもMさんも自分の娘と年齢がほとんど
変わらない若い女性だ。
ドラマ「北の国から」で、螢が看護学校に通うため、
毎日、富良野から旭川まで始発電車に乗っていた
シーンを僕は思い出した。
その後、ドラマの中で螢は、道に外れ気味な
波瀾万丈の人生を歩むことになるのだけど、
お二人には螢と違って穏やかで幸せな人生を送って
ほしいなと、まったくもって大きなお世話な思いが
頭の中をよぎった。
そんなことを考えているうちに、札幌に到着。
この日はUNWIND HOTEL & BAR札幌に泊まる。
ホテルに着くと、UNWIND HOTELの大場さんが
待っていてくれて、屋上の素敵なバーでこの日2回目
の打ち上げをする。みんなでお酒を飲みながら、
お互いの出会いから今回のイベントに至るまでのこと
を楽しく話をした。
翌日は、車で札幌から旭川まで走りながら、
トラベラーズノートとの風景を撮影することに
していた(実際に撮影するの橋本だけど)。
毎回、旅先の風景を表紙にしていたトラベラーズ
タイムズもここ数年は旅ができなかったこともあり、
京都や中目黒のトラベラーズファクトリーで撮影した
写真を使っている。
せっかくの北海道でのイベントということで
表紙にできるような写真が撮れればと思っていた。
札幌から富良野や美瑛などを巡り、
ところどころで車を止めながら、写真を撮影。
北海道らしい風景の中にあるトラベラーズノートを
撮影することもできて、そろそろ旭川に入ろうかと
思っていたところで、最後に美瑛の白樺の木が並ぶ
田園風景の中で車を止めた。
時間は18時50分。だんだん日が沈み始めたところ。
空は厚い雲に覆われていて、地平線の近くでは、
雲の切れ目からは黄色の太陽の光が差し込んでくる。
雲がなければもっときれいなのかもしなれないのに、
と思いながらも、白樺の手前にトラベラーズノートを
置いて夕日をバックに撮影してみた。
「なかなかいい感じだね」
それなりに満足しながら写真を撮り続けていると、
日が沈むにつれて、夕日が反射して空を覆う雲が
赤く染まっていく。まさにマジックアワーだ。
「どんどん空が赤くなっていくぞ」
時間が経つほどにシャッターチャンスが更新されて
美しさを増していく景色を前に、高揚感とともに
しばらく撮影を続けた。
「あのときもこんな感じだったよね」
僕らは5年前のアメリカでの旅を思い出していた。
LAのエースホテルでノートバイキングを開催後に、
車でパームスプリングスまで移動した。
エースホテルにチェックインし、ラジオをつけると
偶然流れてきたU2の「With or Without You」に
触発されて、急遽「ジョシュア・ツリー国立公園」へ
向かう(同曲が収録されたU2のアルバムジャケット
の写真が撮影された場所として知られている)。
なんとか日没まで間に合うよう急いで車を走らせ、
着いたころには、まさに日が沈もうとしている時間。
慌てて車を止めて、あのジョシュア・ツリーの前に
トラベラーズノートを置いて、写真を撮っていると、
どんどん空が赤くなってきて、自然が演出する壮大で
美しい風景に感動した(このとき撮影した写真は、
トラベラーズタイムズ13号の表紙に使っている)。
美瑛の夕暮れを眺めながら、今回の北海道の旅と
5年前のアメリカの旅が繋がったように感じた。
UNWIND HOTEL小樽もエースホテルと同じように
古い建物をリノベーションしたホテルで、似た空気感
のある場所だし、あのときと同じようにイベント後の
高揚感のままで旅をして、大自然の中でマジックの
ような風景に遭遇した。
「やっぱり旅っていいね。もっと旅をしないとだね」
旭川に着き、ジンギスカンとビールで旅の最後の
打ち上げをしながら、そんなことを話した。
旅は、過去の旅の記憶をあぶり出し、新しい旅へと
導いてくれる。やっぱり旅はいいな。