2021年5月 6日

ゴールデンウィークの思い出

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約30年前のゴールデンウィーク。
僕は新幹線に乗ってひとり仙台に向かっていた。
新卒で入社して1ヶ月。
最初の赴任地への引越しのための旅だった。
仙台駅に着くと、まだ会ったことがない会社の
上司が待ってくれているという東口へ向かった。
仙台駅がテレビなどで紹介される時に登場する
表玄関が西口で、東口はその裏側にあたる。
今では東口もずいぶん賑やかになったけれど、
当時はバス乗り場がある他は閑散としていて、
出口の階段を降りると、社名が書かれた営業車を
簡単に見つけることができた。
その横には、お笑いマンガ道場に出演していた
富永一郎に似た上司が、営業車から降りて僕を
待っていてくれた。
「よろしくおねがいします!」と僕としては
最大級の感じの良さを意識して声をかけると、
「いやあ、よく来たねえ」と優しく温かなトーンで
答えてくれて、少しほっとした。

助手席に乗り20分ほど走ると、
これから働くことになる営業所に着いた。
営業所の倉庫には僕の引越しの荷物が届いていた。
実家からはじめての一人暮らしということで、
荷物がそれほど多くないから、宅急便で送って
おいたのだ。
上司と一緒に荷物を車に積み込むと、
契約したアパートまでついてきてもらった。
荷物は段ボールで10箱程度しかなかったので、
部屋に運ぶのもそれほど時間がかからなかったけど
上司はびっしょり汗をかいていた。
「あとは大丈夫かな?」
そういえばこの日はゴールデンウィークであるのを
思い出した。
「大丈夫です。休日なのにありがとうございます」
と僕が言うと「じゃあ休み明けに会社で会おうね」
と上司は言って車に乗り去っていった。

一人になると、思わずアパートの部屋の畳の上に
大の字になって寝っ転がった。
新しい畳の爽やかな匂いをかぎながら
僕は一息つくように大きく深呼吸をした。

アパートはFAXで送られてきた間取り図だけを
見て決めたのだけど、日当たりも悪くないし、
ふすまで区切られた6畳と4畳半の部屋をつなげると
けっこう広々と感じられ、僕はそれなりに満足した。
段ボールを開けて、テレビやステレオ、書棚などを
置くと、少し部屋らしくなった。
アパートから歩いて2、3分の場所に、
少し大きめのスーパーマーケットがあったので、
そこへ行き、風呂桶やコップなど差し当たり
必要な物を買うと、その隣にあったとんかつ屋で
夕飯を食べた。
引越してはじめての食事ということで
少し奮発して注文したヒレカツとエビフライ定食は、
思いのほか美味しくて嬉しくなった。

仙台の気温は東京と比べると2、3度ほど低い。
温かいコーヒーが飲みたくなり、家に帰る途中の
自動販売機でホットの缶コーヒーを買った。
そして自動販売機の隣に公衆電話を見つけると、
ふと思い立ち、その頃少し仲良くなりかけていた
女の子に電話をかけてみることにした。
(その頃は携帯電話なんてなかったし、
家に電話を引くまではもう少し時間が必要だった)

「仙台に着いたよ」
「アパートはどう?」
「快適だよ。東京と比べたら家賃も安いから
広めの部屋だよ。落ち着いたら遊びに来てよ」
「いつかね」

こういう時に女の子が言う「いつかね」は、
たいてい永遠にやって来ない。
懲りずに取り止めのない話をしながら、
なんとかお互いの距離を詰めようとしてみたけど
手応えもないまま手持ちの100円玉は無情にも
すぐになくなっていった。
「また電話するね」
最後の100円分の通話料金が切れる前に、
自分から電話を切った。

アパートに戻り、誰もいない部屋の電気をつけると、
初めての一人暮らしがはじまる晴れやかな気分と、
ぼんやりとした不安や孤独感が混ざった不思議な
気持ちになった。
今でもひとり旅で、ホテルにチェックインして
部屋に入ると似たような感覚に襲われるけれど、
僕はこの感覚は嫌いではない。

冷え切った缶コーヒーを飲みながら、
明日はホームセンターに行って、ガスコンロに
ケトルとコーヒーの道具を買おう、それに
冷蔵庫と炊飯器もだな、なんて考えていると、
だんだんとワクワクしてきた。

昨年に引き続き2回目の緊急事態宣言の
ゴールデンウィーク。
みなさんいかがお過ごしでしょうか。
トラベラーズファクトリー中目黒は
調べてみるとどうやら今回は休業要請対象では
ないらしく、ゴールデンウィーク中も静かに
営業をしていました。

僕はひとり自転車に乗って東京を走り、
人の少ない都内のホテルに泊まったりして
過ごしました。
でもそろそろ遠くの知らない町を旅したいし、
こんなゴールデンウィークはもう最後であって
ほしいですね。

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2021年4月26日

小さな本屋を開業したことを綴った本

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ウィークデイのある日、
18時を少し過ぎたところで、仕事が一息ついた。
今日はみんなテレワークだったり、
出かけていたりして、オフィスには僕ひとり。
いつもより少し早いけど、オフィスの鍵を閉めて
帰ろうかなと思っていると、ふと買いたい本が
1冊あったのを思い出した。

盛岡にある本屋、BOOK NERDの店主が本を
出版したことをフォローしていたインスタで知り、
買おうと思っていたのだ。
インスタを再度チェックしてみると、
その本を扱っている本屋が掲載されている。
その中でSUNNY BOY BOOKSという店が
ここから2キロほどの距離で一番近い。
電車に乗れば一駅分だけど、あえて歩いて
行くことにした。
グーグルマップの指示通り歩いていくと、
賑やかな繁華街を抜けて、閑静な住宅街に
向かって行った。
こっちでいいのかなと少し不安になりながら
歩いていると、薄暗い夜の住宅街の中で
ぼんやりとやさしいオレンジ色の明かりを灯す
小さな建物を見つけた。
僕は砂漠でオアシスを見つけたような気分になり
思わずにんまりして、店の中へ入った。

狭い店内には、古書に新刊、Zineが分け隔てなく
ぎっしり並んでいる。
本の背表紙を追いながら棚を眺めていると
心に引っかかるような本がいくつも見つかった。
客は他に誰もいない。
店内のBGMでは、女性シンガーがアコースティック
楽器での演奏をバックに、英語でも日本語でもない
言葉で、静かだけどじんわりと心に染み入る歌を
唄っている。
目にとまった本を手にとり、ぱらぱらめくっていると
心が落ち着き清々しい気分になっていった。
狭い店内で30分ほどゆっくり本を眺めて過ごすと、
お目当ての本『ぼくにはこれしかなかった』と、
アメリカのホーボーについて書かれた本をレジに
持っていき、名残惜しい気持ちで店を出た。
夜の少し冷たい風を浴びながら、
住宅街の人通りの少ない道を歩いていると、
まるでお風呂上がりのように
心がぽかぽかと温まっているのを感じた。

『ぼくにはこれしかなかった』は、
BOOK NERDの店主、早川大輔氏氏が
サラリーマン時代を経て、BOOK NERDを開店、
そんな中での挫折や苦悩、仕事の喜びを体験談を
交えながら丁寧に綴っている。
自分がほんとうに好きなものを人に届けることを
生業としたいと盛岡で本屋を開業することを決め、
さらにそれを生業として成立させようと奮闘する姿に
共感と憧れを感じながら一気に読み進めた。

BOOK NERDを最初に知ったのは、
3年前にトラベラーズファクトリーとして
出店したイベント アルプスブックキャンプだった。
会場内を歩いていると、ふとずっと探していた
ブローティガンの『東京モンタナ急行』を見つけ、
思わず手に入れたのが、盛岡から出店していた
BOOK NERDのブースだった。
さらにその年の夏にたまたま旅先として盛岡を訪れる
ことになり、その実店舗にも立ち寄ることができた。

『ぼくにはこれしかなかった』には、
オープンして1年が経過したあの頃の店の実情や、
その時店主と話をして聞いていたアメリカでの本の
買い付けの旅の詳細も書かれている。
それらを興味深く読みながら、BOOK NERDの
本の品揃えやレコードプレイヤーから流れるBGM、
その空間の空気感を思い出した。
また盛岡を旅して、BOOK NERDで本を手に入れ、
街に数多ある喫茶店に立ち寄り、深煎りのコーヒー
でも飲みながらゆっくり本を読んでみたいな。

『ぼくにはこれしかなかった』を読んだ後は、
ふと思い出し『本屋、はじめました』という本を
読んでみた。
こちらは、荻窪の本屋 titleの店主、辻山 良雄氏が
やはりサラリーマンを経て独立し、Titleをオープン
させるまでを綴った本。

Titleは昨年の夏、西荻の宿に泊まった時に
訪ねている。こちらはBOOK NERDと違って
古書ではなく新刊本を中心にしている。
狭い店内に週刊誌なども揃えた幅広い品揃えながら、
だからと言って薄味ではなく、思わず手に取って
しまいたくなるような未知の本の発見も多く、
端から端までじっくり棚を眺めてしまったのを
覚えている。
その後フォローするようになったtwitterでは
毎日丁寧に本を紹介していて、本のガイドとして
活用させてもらっている。

辻山氏は本好きが高じて大手書店のリブロに入社、
その後、九州、広島、名古屋、と全国の店舗で
店長などを経験しながら、池袋本店の閉店とともに
自ら退社し、Titleを立ち上げている。
『本屋、はじめました』では、その時のことが
丁寧かつ分かりやすく綴られている。
例えばいろいろ検討した上で導入を決めたレジの
システムが、トラベラーズファクトリーで使用して
ものと同じだということを発見できたりして、
リアルな共感とともに読ませてもらった。
巻末に事業計画書に初年度のPLまで掲載されていて
同じ店舗運営に関わるものとして勉強にもなる。

膨大な量の出版物が世の中にあり、
今も日々数多くの本が出版されている。
その中でどの本を選び、どんな風に店頭に置くか
ということで、書店には自然とその中にひとつの
世界観が生まれる。
一冊の本が持つ佇まいが、
その周りの本と共鳴しながら空気感を作り出し、
そこから世界と対峙していく心構えや、
生きていくための救いとなるようなメッセージ、
心を高揚させる物語の奥行きを感じさせてくれる。
僕はそんな本屋という場所が好きだ。

2冊の本を読むと、
店主はそれぞれの本屋を運営するために
パーソナルな自分自身の経験や感性を指針とし、
真摯に愛情をたっぷり込めて本に向き合っている
のが分かる。
だからこそ本屋それ自体に個性や人格のような
ものが生まれ、僕らはその場所から友人のような
温かさや親しみを感じる。

本を探すにはアマゾンは便利だけど、
僕はできる限り、そういったことを感じさせて
くれるリアルな書店で本を買うようにしている。

本を愛して、それゆえに本を紹介し売ることを
生業として選んだ方々による2冊の本を読んで、
より一層そう思った。

今年もゴールデンウィークは旅には出られないし、
自転車で本屋巡りでもしてみようかな。


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2021年4月19日

鎌倉よりみち散歩旅

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1ヶ月前のこと。
訳あって、久しぶりに有給休暇をとって
鎌倉へ日帰りひとり旅をした。
平日の朝、いつもの時間に家を出て
いつもの駅で電車に乗り、途中の駅で
いつもと違う電車に乗り換える。
乗客もすっかり少なくなり、独り占めの
ボックスシートから車窓の風景を眺めていると、
じわじわと旅気分が盛り上がってきた。

10時ごろ鎌倉駅に着く。さて、どうしようか。
いくつか行きたい場所はあるのだけど、
どう歩くのかは考えていない。
とりあえず賑やかな小町通りに繋がる東口とは
逆の静かな西口から外へ出た。
すると、駅前に本屋さんがあったので覗いてみる
ことにする。
入り口のワゴン棚に週刊誌や子供向け雑誌が並ぶ
いかにも街の本屋といった佇まいだ。
そういえば最近こういう本屋は少なくなったな。
店内に入ると、街の本屋特有のインクの匂いがして、
懐かしい気持ちになった。
棚を眺めると予想に反して興味をそそる本が
たくさんあって胸が高鳴った。
旅先で気に入った本屋に出会うと、必ず一冊は
本を買うようにしている。
ここでの一冊を探してゆっくり棚を眺めた。
平積みで置かれていた田村隆一氏の
『ぼくの鎌倉散歩』という本が目に留まり、
手に取ってパラパラとページをめくってみる。

「稲村ヶ崎の谷の奥にあるわが家の裏山から
極楽寺におりる山道はすばらしい。
裏山には超ミニの熊野権現の小社があって、
小さなリンゴが二つ供えられていたりする。
それからグミの実が落ちている山道をのぼりつめる
と、夏草におおわれていた細い十字路もくっきり
あらわれて......」こんな文章を見つけた。
稲村ヶ崎から極楽寺の山道か。このルートを
歩いてみようかな、そう思い立つと、本を購入し、
足早に江ノ電の乗り場へ向かった。

江ノ電に乗ると、子供みたいに一番前の席に座り、
運転席越しに鎌倉の景色を楽しんだ。
稲村ヶ崎駅を降りと、まずは海岸まで歩き海を見る。
海岸の前の堤防に腰を下ろし、『鎌倉散歩』の
ページを開くと、この場所を描いた詩を見つけた。

「鎌倉由比ヶ浜の 稲村ヶ崎にかけての 
 白い波頭を見ていると  黒潮の 
 動きが手にとるように分かってきて 
 無数の生き物 無数の性の 
 歓びと悲しみがぼくの心に ひびいてくるのさ」

空は雲に覆われてはいるけれど、
春の暖かい空気が体を包んでくれる。
しばらくぼーっとしながら、不規則に繰り返す波の
動きを眺めた。いやあ、気持ちいいなあ。

『鎌倉散歩』によると、
かつて田村氏が住んでいた家の裏山は、
稲村ヶ崎駅を北に歩いた突き当たりにあるという。
グーグルマップで方向を確認しながら、
閑静な住宅地を歩いた。
突き当たりらしき場所に着いたけれど、
裏山の道はグーグルマップには記されていない。
それっぽい場所を探して、なんとか山に入る道の
入り口を見つけた。
それでも不安になりながら山道を登り、
『鎌倉散歩』に書かれていた熊野権現社の石碑を
見つけた時は「やった!」と思った。
そこから先はまさに山登りといった感じで、
木影で木の実をたべるリスを見たりしながら、
ハイキング気分で歩いた。

だけど、勝手の知らない山道。
『鎌倉散歩』ではその後、月影地蔵を経由し、
極楽寺に抜けるはずなのに、鎌倉山に出たり、
元に戻ってしまったりして、何度もグーグルマップと
にらめっこしながら、1時間以上迷いながら歩いて、
極楽寺の手前の道路に抜けた。

極楽寺に着くと、味のある佇まいの中華屋を発見。
本当は別の店でランチをしようと思っていたけど、
山道を長い時間歩いてすっかりお腹も空いていたし、
喉も乾いていたので、誘惑に負けて扉を開けた。
素朴な味付けのカニチャーハン、おいしかったな。

そこからは、鎌倉駅に向かってずっと歩く。
途中長谷寺を散策し、鎌倉駅近くの雑貨店モルンへ。
3年前にオズマガジンのよりみちノートイベントで、
お会いして以来、久しぶりに店長の佐々木さんと
お話をすることができた。
そして、鎌倉に来ると必ず立ち寄るカフェ、
ヴィヴモン・ディモンシュでコーヒーをいただく。
『鎌倉散歩』の残りのページを読んだり、
ノートに旅の記録を記したりしてのんびり過ごして
いたら、外はだんだん薄暗くなってきた。

旅の最後は、最初から銭湯に行こうと決めていた。
事前に調べていた近辺に唯一残るという昭和30年
創業の清水湯だ。

「昼間の銭湯は、平安と静けさにみちみちていて
天窓から光がゆったりとさしてきて、ボォーっと
湯気ととけあって...。ま、あの味を覚えたら、
立身出世しようなどとは夢にも考えられなくなる」

田村隆一氏も『スコッチと銭湯』で平日の昼間の
銭湯を魅力的に書いている。
ディモンシュですっかりくつろいでしまい、
足が重くなってきたけど、明るいうちにお風呂に
入ろうと、足早に清水湯に向かった。

清水湯にたどり着くと非情にも
「コロナ禍のため週3日のみの営業になります」と
書かれた張り紙が貼られ、扉は固く閉ざされていた。
しばらく呆然としたけれど、また次に鎌倉に来る
理由ができたと前向きに考えて、再び鎌倉駅の方へ
向かって歩いた。
その後、大船で途中下車して無事に別の銭湯に
入って、平日日帰り旅を締め括ることができた。

オズマガジンの井上編集長にお声がけいただき、
今月より新連載の「よりみちノートを始めよう』
というコーナーにトラベラーズカンパニーが
協力させていただくことになった。
その1回目が鎌倉特集ということで、
この鎌倉の日帰り旅を記したノートと写真を掲載
してもらっている。
B-Sides & Rarities ジャバラに旅の記録を
描いてみたのだけど、まさに旅を反芻するように
楽しく描くことができた。
旅の記録とジャバラは思った以上に相性が良さそう。
オズマガジン、見かけたらぜひ手に取ってみて
ください!


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2021年4月12日

銭湯とノート

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このブログはたいていカフェで書く。
週末、自転車に乗って家の近所のカフェまで行き
とりあえずコーヒーをオーダーすると、
マックブックを開いて、さて何を書こうかと考える。
自然と流れるように文章が進むこともあるし、
何も思い浮かばず四苦八苦しながら書くこともある。
だけど、毎週ルーティンのようにやっていると、
最終的にはなんとか日記らしいものが書き終わる。
それからトラベラーズノートに絵を描く。
これも文章を書いている途中で、
何を描こうか自然に浮かんでくることもあるし、
何も思い浮かばないこともある。
そんな時は文章と全然関係なくてもいいから
描きたいものを描いてやりすごすことにしている。
何を描くか決めてしまえば、絵を描く間は
ひたすらその作業に没頭できるので楽しい。

そうやってコーヒーを飲みながら、
ブログを書き、絵を描き終わるまでカフェにいると
それなりに長時間の滞在になることも多い。
なので、いつも利用するのはカフェと言っても
気を使わないチェーン店にしている。
さらに毎週同じ店には行かないように、
自転車で2、3分から30分程度の距離まで、
その日の天気や気分で4、5カ所の店を
ローテーションするようにしている。

ブログと絵が仕上がると、
銭湯に行くのがいつものパターン。
カフェのローテーションにあわせて、
その近くだったり、帰り道の途中にある銭湯に行く。
僕が住んでいる場所が下町ということもあり、
近くにはたくさんの銭湯がある。
それぞれの銭湯には違った特徴があって、
なかなか面白い。
露天風呂が付いていたり、サウナのクオリティーが
高かったりする人気の銭湯もあるし、
逆に施設に目立った特徴がないけど
それゆえに人が少なくゆっくり入れる銭湯もある。
ブログを書き終わり、ひと仕事を終えた気分で、
ほっと一息つきながら、どこの銭湯に行こうかと
考える時間もまた楽しい。

さて、この日もブログを書き終え、
どこの銭湯にしようかと考えていると、
発売したばかりの耐洗紙リフィルを思い出した。
僕は銭湯に行く時はいつも本を持っていく。
サウナに入った後の休憩時に読むのだ。
本は濡れてシワシワになってしまうけれど、
サウナで火照った体を水風呂で冷やした後、
頭がぼーっとする中で本を読むのが心地よい。
ふと、その時に手にするものを本からノートに
変えてみるのも面白いかもと思った。

これまでも銭湯の建物の絵を描いたことは
あるけれど、浴室内を描くのは難しい。
僕が絵を描く時は、iPhoneで撮影した写真を
見ながら描くことが多い。
これまで、いろいろな種類のお風呂があったり、
広さもレイアウトもさまざまな銭湯の浴室内を
『河童が覗いたシリーズ』の妹尾河童氏のように
描いてみたいとは思うことはあったけれど、
浴室はiPhoneで撮影することができないので、
描くことができなかったのだ。

だけど、耐洗紙リフィルを浴室内に持っていき、
レイアウトをささっと描いておき、後でそれを
見ながらだったら描けるのでは、と思った。

ということで、早速耐洗紙リフィルとブラス
ペンシルを持って、近所の銭湯に向かった。

まずはサウナに入ってサウナ内のレイアウトを
描いてみた。だけど熱伝導の良い真鍮製のブラス
ペンシルはすぐに持つことができないほどに
熱くなってしまい、鉛筆の木軸を持って描いた。
(教訓:ブラスペンはサウナには向かない)

サウナを出て水風呂に入りすっきりすると、
浴室の端っこに椅子をおいて座りながら、
全体のレイアウトを描いてみた。
お風呂なのでノートの上に水が跳ねてくるけど、
耐洗紙なのでまったく問題ない。
むしろわざと濡れている床に置いてみたりした。

そして次の日、耐洗紙に描いたラフスケッチを
見ながら、いつもの水彩紙リフィルに
『河童が覗いた〜』風の絵を描いてみた。
描き終わると別の銭湯も描いてみたくなる。
まずは近所を制覇したら、日本全国銭湯巡りの
旅をするのも楽しそうだな。

話は変わりますが、トラベラーズファクトリー
中目黒で、久しぶりのイベントchoiceを開催して
います。
葉山で帆布バッグを作るKo'da Styleのこうださんと
ニット帽作家のshort fingerの渡部まみさんによる
このイベント、実はもともと2月に開催を予定して
いたのだけど、東京で緊急事態宣言が出たことで、
延期して4月の開催になりました。

今回イベントでの特別企画として、
Ko'da Styleからはトラベラーズノート用バッグ
として人気のトロールがオリジナルのカラーで
オーダーできるトロールバイキングを、
short fingerからはニット帽用のコットン毛糸で
ハンドメイドで作ったタッセルをご用意して
もらっている。

ただ、感染状況もなかなか落ち着かない中で、
足を運ぶのが難しい方もいらっしゃると思うので、
今回はオンラインショプ、ステーション、京都でも
プチイベントを企画していますので、
ぜひこちらもよろしくお願いします!
早くいろいろ落ち着くといいですね。


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2021年4月 5日

プレイリスト

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B-Sides & Raritiesの発売とあわせて
性懲りも無くSpotifyとYouTubeのプレイリストを
作ってトラベラーズファクトリーサイトに
アップしている。>>>
最初、TRC USAからの提案で作ることになった
プレイリストは、今ではB-Sidesを含めて3つある。

これらのプレイリストが、トラベラーズノートを
使ってくれている方々にどれだけ求められているのか、
そもそも喜んでもらえているのかという点については、
正直に言えばまったく自信も手ごたえもない。
だけど、音楽好きの僕にとっては、
チャチャっと適当に作れるようなものではないので、
それなりに時間をかけて、同時に思い入れも込めて、
うんうんと頭を悩ませながら曲をセレクトし、
全体の流れを考えて曲順を決めている。
例えば、受験生が受験にはほとんど関係がない
科目をなんとなく好きだからという理由で、
つい一生懸命勉強してしまうという感じだろうか。
受験に影響する科目をちゃんと勉強した上で、
ということならまだいいんだろうけど、
それはそれで気が進まずはかどらない。
「受験」を「売上」とか「効果」に置き換えると、
確かにやっていることは同じかもしれない。

B-Sides & Raritiesの発売日、
トラベラーズファクトリーに向かう途中、
店を出たばかりのお客様とすれ違った際に
声をかけていただいた。
素敵に使ってくれているトラベラーズノートを
見せてもらいながらお話をしていると、
「プレイリストも聴いていますよ」と言ってくれた。
その時は、なんとなく照れくさくて
ポーカーフェイスを装っていたけれど、
聴いてくれている人もいるんだと分かって、
かなり嬉しかった。

個人的な思い入れがたっぷりの大好きな曲が
並んでいるから、プレイリストを聴いてくれる
だけで、やっぱり嬉しい。
自分が本当に好きなものを好きだと発信し、
それに対して誰かから共感を得られる、
それだけで、何か心が通じ合えた気がするし、
人生の喜びっていうのは、そこに尽きるとさえ
思ったりもする。
良いものか悪いものかを判断する際に、
評判とか人の意見だけを頼りにしていると、
本質的な良さはいつまでも理解できない。
だけど、本気で好きな何かを見つけると、
それがコンパスのように進むべき道筋を示し、
磁石のように新たな出会いを引き寄せてくれる。
僕にとってトラベラーズノートも音楽も
そういう存在だった。

今回のプレイリストは、B-Sides & Raritiesを
テーマにしている。
COFFEE TABLE TRIPやLOVE AND TRIPの
プレイリストを作る時もそうだったけれど、
テーマを設けることで、新たな発見や思い付きが
あるのも楽しい。
今回のB-Sides & Raritiesで選んだ曲について
ちょっとした解説を書いてみた。
40曲分あるのでかなり長いですが、
興味のある方だけでも読んでいただけたら嬉しいです。

1.We're (Gonna) Rock Around The Clock
Bill Haley & His Comets

「Thirteen Women」のB面、1954年リリース。
映画のサントラとして使われたことでヒット。
ロックンロールの元祖とも言われる曲のひとつが
B面から生まれているのがロックっぽくていいな。

2. Revolution / The Beatles
「ヘイ・ジュード」のB面、1968年にリリース。
ポップで耳触りのいいA面(もちろん名曲だけど)
の裏に、激しいギターとともに始まる革命を煽る曲。
これぞB面といった曲ですね。

3. Ev'rybody's Gonna Be Happy / The Kinks
「Who'll Be In the Next In Line」のB面、
1965年にリリース。やっぱりキンクスは外せない。

4.Be-Bop-A-Lula / Gene Vincent&His Blue Caps
「ウーマン・ラヴ」のB面、1956年リリース。
ジョン・レノンのバージョンで知った曲。

5. Woodland Rock / T-Rex
「Hot Love」のB面、1971年リリース。
典型的なロックンロールナンバーなのに、
逆回転ギターやコーラス、ストリングスなど
T-Rexとしか言えない音になっているのがいい。

6. Gloria / Them
「Baby, Please Don't Go」B面、1964年リリース。
パンクの女王、パティスミスによるカバーも有名。

7. Suffragette City / David Bowie
「Starman」のB面、1972年にリリース。
この曲が収録のアルバム『ジギースターダスト』は
全部A面級の名盤のアルバム。

8. Winterlong / Pixies
「Dig for Fire」のB面、1990年リリース。
ニール・ヤングの名曲のカバー。さえない奴が
ステージに立った途端に輝きを放つこともロックの
美しさであればボーカルのブラック・フランシスは
その典型。

9. I'll Feel a Whole Lot Better / The Byrds
「All I Really Want to Do」B面として
1965年リリース。初期のバーズの魅力のひとつ、
疾走感のあるギターが気持ちいいロックナンバー。

10. Where Angels Play / Stone Roses
「I Wanna Be Adored」のB面、1989年リリース。
曲の最後、このままフェイドアウトして終わるのか
と思っていると、いきなり素晴らしいギターソロが
始まるんだけど、いつもこの瞬間涙が出そうになる。

11. God Only Knows / Beach Boys
「Wouldn't It Be Nice」のB面、1966年リリース。
ポール・マッカートニーに今まで聴いた中で最高の
曲と言わしめた曲がB面ですよ。A面も個人的にも
大好きな曲だし贅沢なカップリングです。

12. Femme Fatale / Velvet Underground & Nico
「Sunday Morning」のB面、1966年リリース。
同曲収録のアルバムはシール台紙リフィルの表紙の
モチーフ。

13. Unwind / Sonic Youth
シングルB面曲ではないけど、耐洗紙リフィルの表紙
のモチーフになった『Washing Machine』収録。
『ジギースターダスト』が全曲A面級アルバムなら、
これは全曲B面曲のような実験的なアルバム。

14. Your Song / Elton John
「Take Me to the Pilot」B面、1970年リリース。
「Take Me to the Pilot」と比べると圧倒的に
キャッチなこの曲をなんでB面にしようと思った
んだろう。映画「ロケットマン」で描かれている
この曲が生まれるエピソードも素敵です。

15. Sweet Memories / 松田聖子
「ガラスの林檎」のB面、1983年リリース。
アイドルにはまったりした経験はないんだけど
この曲や「赤いスイートピー」、「夏の扉」とかが
ふと流れてくると今でも思わず胸がきゅんとなる。
(近所の銭湯では80年代歌謡曲がよく流れる)

16. Maggie May / Rod Stewart
「Reason to Believe」のB面、1971年リリース。
ロッド・スチュワート、ソロでの初ヒットはB面曲。

17. Born Slippy .NUXX / Underworld
1995年にインストバージョンのB面としてリリース。
その後、映画「トレインスポッティング」のサントラ
で使用されヒット。僕も映画でこの曲を知ったんだ
けど、この映画は音楽も含めて衝撃的だった。

18. Move on Up / The Jam
ジャムの最後のシングル「ビート・サレンダー」
(超名曲)のB面として1982年リリース。
カーティス・メイフィールドの名曲をカバー。
いやーこれもかっこいい。

19. Sorrow16 / Manic Street Preachers
「モータウン・ジャンク」B面、1991年リリース。
このシングルを出した頃、バンドは最高のデビュー
アルバムをリリースし、1位をとって解散すると公言。
本気かよ、と疑う記者を前に、ナイフで自分の腕に
Realと切り込みを入れた。デビューアルバムは結局
1位になれなくて解散もせず、ムーブメントとは距離
をおいた良質なバンドとして今も活動を続けている。
音はもちろん、そんなところも全部大好きなバンド。
ちなみに腕に切り込みを入れたメンバーは、
サードアルバムリリース後失踪し、今も行方不明。

20. 1977 / The Clash
クラッシュの記念すべきデビューシングル、
「白い暴動」のB面として1977年リリース。
今はYouTubeなどで簡単に聴くことができるけど、
まだネットもなかった時代には、幻の曲だった。
そんな貴重な曲をダビング重ねたカセットテープで
やっと聴いたりすのももけっこう楽しかったと思う。

21. No Feeling / Sex Pistols
「God Save the Queen」B面、1977年リリース。
リフィルジャバラはこの曲が収録されたアルバム
ジャケットがモチーフ。パンクをリアルタイムで
体験できなかったけど、このアルバムを手にして
聴いた瞬間が自分にとってのリアルなパンクとの
出会いだった。

22. How Soon Is Now? / The Smiths
「William, It Was Really Nothing」のB面。
1984年リリース。4年前イベントでLAに行った際、
スミスのボーカリストだったモリッシーのライブに
立ち会うことができた。この曲が流れた瞬間は最高に
盛り上がり、会場の集まった人はみんな僕と同じ様に、
思春期の頃からこの歌に魅了され続け、救われてきた
のだと思った。それだけでみんな仲間のような気が
したし、この場所がLAだと思うとなおさら嬉しかった。

23. Do It Clean / Echo & the Bunnymen
「The Puppet」のB面、1980年リリース。
エコバニはスミスとほぼ同時代に活躍したバンド
だけど、ボーカリストが美形というのが大きな違いで
それゆえに女性ファンも多かった。僕がエコバニを
ちゃんと聴くきっかけになったのも学生時代に
付き合っていた女の子が大ファンで全アルバムを
録音したカセットテープをもらったからだった。

24. The Killing Moon / Pavement
「Major Leagues」のB面、1999年リリース。
そのエコバニの一番のヒット曲のカバー。
この頃のペイブメントは、本当に聴いていると
どんより暗くなるんだけど、好きで当時よく
聴いてたなあ。

25. These Days / Joy Division
「Love Will Tear Us Apart」B面、1980年リリース。
きっとスミスもエコバニもペイブメントも影響を
受けている1976年デビューのポストパンクバンド。
このシングルリリース直後、ボーカルのイアン
カーティスが自殺して解散。その後残されたメンバー
でニューオーダーが結成される。

26. Show Me The Way / Dinosaur Jr
「Little Fury Things」のB面、1987年リリース。
Spotifyにはこの曲がなかったのでKeep The Gloveを。
グランジと言われたバンドではこのダイナソーが
一番好きだったなあ。ギターとボーカル担当のJ
みたいにギターが弾けたらいいのになと思った。

27. Be True / Bruce Springsteen
「Fade Away」のB面、1980年リリース。
A面の曲が収録されている「River」も名盤で、
今でも定期的に聴くアルバムのひとつ。

28. Beneath / Ride
「Today Forever」B面に収録。1991年リリース。
ライドは僕が学生の時にデビューしたバンドなんだ
けど、メンバーが自分達より年下でそれなのに、
もう完全にやられたって感じの衝撃を受けた。
何を張り合ってたのか分からないけど、
そんな気分になったはじめてのバンドだった。

29. Halo / The Cure
「Friday, I'm in Love」のB面、1992年リリース。
B面がどうのというよりも、単に個人的に好きで
世代的な偏りたっぷりのバンドの曲が続くけど、
やっぱり10代から20代前半ごろに聴いていた
音楽は今でも大好きだなあ。

30. Green Onions / Booker T. & the M.G.'s
「Behave Yourself」のB面、1962年リリース。
ブッカー・T によるオンガンで有名な名曲だけど、
実は中学時代に友人から回ってきたエッチなビデオの
BGMにこの曲が使われていて、それがこの曲との
出会いでもあった。聴くと今でも複雑な想いになる。

31. Harder They Come / Jimmy Crif
「Many Rivers to Cross」B面、1972年リリース。
ストーンズのキース・リチャーズがカバーしていること
からこの曲を知って、それでこの曲が収録されている、
同名の映画のサントラアルバムを買ったら、これが、
レゲエの名曲がつまったアルバムで、レゲエとの出会い
のきっかけになった。

32. Hey Love / Steive Wonder
「Travelin' Man」のB面、1966年リリース。
ステーヴィー・ワンダーって昔はあんまり好きじゃ
なかったんだけど、歳をとるにつれて聴くように
なった。そういうのってありますよね。

33. She's Always in My Hair / Price
「Paisley Park」のB面、1985年リリース。
高校生の頃、渋谷陽一がプリンスは良いって
言うから、よく分からないまま聴いていた。
でもそうやって聴き続けることでその良さに気づく
こともありますよね。かっこいい。

34. Fools Gold / Stone Roses
「What The World Is Waiting For」のB面、
1989年リリース。デビューアルバムから数年、
待ち望んで聴いたシングルだった。成功パターンを
繰り返すなんてしないとバンドが言っていたように、
それまでと違う曲調に最初は戸惑ったけど、聴くほど
に好きになった曲。そんな姿勢もかっこよかったな。

35. 空がまた暗くなる / RCサクセション
「スローバラード RE-MIX VERSION」のB面
1991年リリース。RCのラストアルバムに収録。
「大人だろ、勇気を出せよ」今でもこの曲を心で
つぶやくように歌って奮い立たせることもある。

36. Mercedes Benz / Janis Joplin
「Cry Baby」のB面、1971年リリース。
ジャニスの死の直後にリリースされたラストアルバム
『パール』収録。デモのようなラフなアカペラだけど
その分、彼女の悲痛な声が胸に響く。

37. How Can You Be Sure / Radio Head
「Fake Plastic Trees」のB面、1995年リリース。
常に実験性と進化を失わないロックの良心みたいな
バンド。これは初期の名曲。

38. If / Pink Floyd
1970年リリースのアルバム「原子心母」B面1曲目。
ジャケットはリフィルジャバラのモチーフ。
このアルバムはこの曲ではじまるB面が好き。

39. Ruby Tuesday / Rolling Stones
「Let's Spend the Night Together」のB面、
1967年リリース。まだストーンズが来日する前、
1988年のミック・ジャガーの東京ドームでのライブ
に行ったのだけど、この曲が流れてくると数列前に
いたおじさんが感極まって、バックネットに登り、
しばらくして降りると警備員に連れていかれたのを
覚えている。あの頃僕は10代だったけど、今は
あの時のおじさんよりも歳をとっているんだろうな。

40. Please, Please, Please, Let Me Get
What I Want / The Smiths

「William, It Was Really Nothing」のB面。
1984年リリース。「モリッシーの書く詩は全部
悲しいの。全部だよ」スミスが好きだと言うエース
ホテルのマギーさんからそう聞いて、ほとんどの曲が
そうだと思っていたけど、全部だとは思って
いなかったので、ちょっと切なくなった。
僕が欲しいものを与えてくださいと、Pleaseを3回も
繰り返しながら訴えるこの曲もやっぱり悲しい。


今回は長いのでリフィルに絵を描くのをお休み
しようと思ったのだけど、田中邦衛氏の訃報が
あったので、絵を描いてみた。
『北の国から』もここで紹介した音楽と同じように
大好きで僕の価値観を作ってきた作品です。


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2021年3月29日

いろいろ落ち着いたら...

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先々週のこと。
「メトロミニッツ」主催のイベントがある
ということで、みんなで青山のスパイラルまで
足を運んだ。
「メトロミニッツ」は、東京メトロ駅構内で
配布しているフリーマガジンで、オズマガジン
前編集長の古川さんが今年から編集長をしている。

トラベラーズノートの初めてのイベントを開催した
僕らにとっても思い出深い場所でもあるスパイラル
のイベントスペースに入ると、
全国のフリーペーパーとあわせて各地から集めた
お菓子やコーヒーが並び、なかなか旅をすることが
できないこの時期にひとときの旅気分を味わえる
素敵なイベントだった。
編集長の古川さんもちょうど会場にいて、
久しぶりにお話をすることができた。

お互いの近況報告からはじまり、
「メトロミニッツ」やこのイベントのことなど、
古川さんらしいものづくりへの想いやこだわり、
仕事に対する姿勢に共感しながら話ができた。
久しぶりに近い価値観で前向きな話ができることに
僕らも嬉しくなって話も盛り上がってきたけれど、
イベント中ということもあって、
そうそう長話をすることもできず、
「いろいろ落ち着いたらゆっくり飲みましょう」
と、普段であれば社交辞令のように聞こえかねない
言葉を言って別れた。
だけど、オンライン上で目にする意見や考えに
もやもやした違和感を感じることが多い昨今、
社交辞令どころか、
共感できる価値観を持つ仲間と
リアルに向かいあって、お酒を飲みながら
真面目なこともくだらないことも織り交ぜて、
だらだらと話をすることを僕は切実に求めている。


トラベラーズノートの立ち上げから一緒に
仕事をしてきた石井さんが家の事情で、
実家のある福知山と東京を行き来することになり、
4月から働き方を変えることになった。
これからも一緒に仕事はしていくのだけど、
先週末にひとつの節目として、
みんなでカードにメッセージを書き、
それをトラベラーズノートにセットして
石井さんに贈った。

石井さんは流山工場とオフィスを行き来しながら、
トラベラーズのものづくりを根底から支え続け、
同時にアアルトコーヒーをはじめ、Ko'da Style、
ベンリーズ&ジョブ、トーキョーバイクなど、
好きを起点に、たくさんのものづくりの仲間と
トラベラーズを繋げ、その世界を広げてきた存在だ。
さらにノートバイキングを発案しリング職人として、
たくさんの世界中の方々のノートを作ってきた。

誰からも愛される、純粋でまっすぐなその人柄は
僕らを奮い立たせて勇気を与えてくれたし、
トラベラーズのピンチを何度も救ってくれた。

会社の同僚という関係を超えて、
同じ想いを共有し、同じ夢を追う仲間として、
仕事とプライベートの境を超えて一緒に旅をし、
お酒を飲みながら熱い気持ちで語り合った。
身を削るような想いで一緒に何度も困難を突破し、
時には唇を噛み締めるような悔しさを味わったし、
心が震えるような喜びも涙がでるほどの感動も
何度も一緒に味わってきた。

石井さんがいなければ、
今のトラベラーズはなかったし、
僕自身も辛い状況を何度助けられたか分からない。
ビートルズもローリングストーンズも、
あのメンバーが同じ時代に同じ場所で出会えたことが
奇跡のように言われるけど、
僕にとって、たまたま同じ会社で石井さんと出会い、
仲間としてトラベラーズの仕事を15年間に渡り
一緒にできたことが奇跡であり、
かけがえのない財産だと思っている。

みんなの想いが詰まったトラベラーズノートは、
石井さんに対し、
きっと僕と同じ思いを抱いているはずの橋本が、
石井さんが好きなものをモチーフにデザインした
完全オリジナルバージョンだ。
多少ペースダウンすることにはなるだろうけど、
これからも一緒に仕事をしていくので、
このノートにこれからの新しい計画を
綴っていってほしいな。

こんなご時世だから、このスペシャルなノートを
渡す際も、みんなで集まることができなかったし、
数人でビール一杯だけで乾杯してお開きになった。

「いろいろ落ち着いたらゆっくり飲みましょう」
僕はまた、社交辞令のような言葉を
社交辞令ではなく切実な想いで言った。

あの頃、たぶん飛沫もいっぱい飛ばしなら
みんなで熱くなって語り合ったように
早くまたお酒を飲みながら
ゆっくり新しい旅の話をしたいな。


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2021年3月22日

春は新しいリフィルとともに

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3月に入り、だいぶ暖かくなってきたので
久しぶりに自転車通勤を再開することにした。
そんなわけで、まずはトラベラーズバイクとともに
トーキョーバイクへ行き、すっかり溝がすり減って
しまったタイヤを新品に替えてもらうことにした。
ついでに新しいヘッドライトを取り付けてもらい、
ひと通りメンテナンスもしてもらった。

作業が終わって自転車を引き取りに行くと、
見た目はもちろん乗り心地まで変わったようで
なんだか新車を手にしたような気分になった。
だけどハンドルのトラベラーズノートの革は
すっかり色も変わり、しっくり手に馴染むし、
トラベラーズのロゴが刻印されている真鍮の
ヘッドバッジの色もいい感じで味が出ている。
「今年もたっぷり走るからよろしく頼むよ」
そんなことを心の中で呟きながら、
ワクワクした気分でペダルを漕いだ。

B-Sides & Raritiesの発売に先駆けて
インスタでは事前にサンプルを送った方々の
使用例の写真やコメントをアップしている。
僕らが想像もしていなかった使い方や視点が
たくさんあって、見ていてとても楽しい。
まだ一部しかアップしていないけれど、
みんな素敵な写真とともにとても濃いコメントを
届けてくれているので、ぜひご覧いただきたい
と思います。

そういえばこのブログのコメントで、Sallyさんが
B-Sides & Raritiesのリフィルに何を描こうか、
どんな風に使おうか苦労しながら頭を悩ませている
ということを書いてくれていたけれど、
トラベラーズらしいなあと嬉しく思ったのと同時に、
これって商品としてどうなんだ、とも思った。
普通、商品はニーズがあるから買うものなのに
そのニーズを苦労しながら捻り出してもらうって、
何様なんだと正直思う。

だけど作っている本人が言うのもなんだけど、
この気持ちはとてもよくわかるのだ。
僕自身が、リフィルのサンプルが完成してはじめて、
さあどう使おうかと考えたのだけど、
それが悩ましくもまた楽しい体験なのだ。

例えば、ジャバラリフィルを手にした時。
はじめて手にするファーマットを眺めながら
しばらく考えて、まずは旅日記を描くことにした。
サンフランシスコからロサンゼルスまで
車で旅した時のことを描いてみたのだけど、
描いて気づいたことがたくさんあった。
ジャバラは、リフィルの1ページ分が折り目を
付けながら繋がっているので、
ページを意識することもできるし、
無視して連なって描くこともできる。
そのことで紙面から、旅の時間の経過や距離感を
よりリアルに感じることができる。
さらに表と裏に分かれているのもおもしろい。
表には旅の前半を描くことになる。
すると、そこには高揚感が高まり旅が深まる姿が
自然と描かれていくのに対し、裏は旅の後半、
旅がピークを過ぎて終わりに向かっていくのを
実感しながら描いているような気分になる。
ジャバラ状に折った1枚の長い紙が、
まさにレコードのA面とB面のように描く心持ちに
ちょっとした変化をもたらしてくれるのだ。
表面は6ページ分で裏面は7ページ分というのも
アルバムの曲数くらいでちょうど良い。
リフィルが変わることで、描く内容はもちろん
描く気分も変わっていくのがおもしろい。

耐洗紙は、企画段階ではノートを洗うシーンなんて
実際にはないだろうから、アウトドアとか
ガーデニング用に使うのにどうかと思っていた。
だけどサンプルができあがり、途中まで書いてから
実際に洗濯機で洗ってみると、洗いざらしのシャツ
みたいにシワがでたノートの風合いが素晴らしい
ことに気づいた。
なんのために洗うの?そんなことに意味あるの?
と真面目に問われると、ほんとうに返す言葉がない
のだけど、洗いざらしのノートが醸し出すシワの
ある紙の風合いがなんともいえず素敵で愛おしく、
ただそれだけの理由でこのノートを使いたいと
思えてしまうのだ。

超軽量紙は、透け感のある薄い紙なので、
トレシングペーパーみたいに写し絵をしたり、
レイヤーのような表現ができるのが魅力だけど、
個人的には昔の辞書のような薄い紙のパリパリした
質感と書き心地が気持ち良いところが好きだ。
さらに書いた後にページをめくる感じも気持ち良い。
サンプルを手にした後、ちょうどリモート会議が
あったのだけど、気持ち良くて会議中に何ページ
も落書きをしてしまった。
こんなことを言うと怒られちゃうかもしれないけど、
ページ数もたくさんあるし、気の進まない会議や授業
での落書き用にもおすすめです(冗談ですよ)。

トラベラーズノートに新しいリフィルを
セットするだけで、まるで新しい道具を
手にしたような新鮮な気分になる。
ぼんやりと考えていた新しいことを本気で
はじめてみようという気持ちになれそうだ。

トラベラーズバイクで家に向かう途中、
目黒川を横切ると、桜の花びらが少しずつ
開きはじめているのが見えた。
満開まであと一週間足らずだろうか。
もう本格的に春はそこまで来ている。


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2021年3月15日

10年と15年

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先週、鎌倉に行く機会があり、
久しぶりに海を見た。
空は雲に覆われていたけれど
春を感じさせる暖かい一日で、
静かな海では何人かのサーファーが
ぷかぷかと浮かんで波を待っていた。
しばらくぼーっとしながら、
不規則に繰り返す波の動きを眺めていると、
ふと、10年前に東北を襲った恐ろしい津波の
ことを思い出した。

東日本大震災から10年ということで、
テレビやラジオでは被災地の今を伝えている。
「10年だからと言って、特別大きな変化がある
わけじゃないし、これまでと同じ通過点の一つに
過ぎない。まだ何も終わっちゃいない」
表現は少し違うかもしれないけれど、そんな意味の
ことを話す福島の方の言葉が印象的だった。

震災から数ヶ月経った後に仙台を訪れた時、
少なからず馴染みのあった場所が、津波によって
その面影すらなくなってしまうくらい破壊されて
しまった姿を見たけれど、
その後、あの場所はきれいに整地されたまま、
住む人もなく空き地のようになっている。
福島の原子力発電所は10年経ってもいまだに
廃炉に向けての目処がたっていない。

震災のあった日、僕らはまもなく迎える
トラベラーズノート5周年アイテムの発売に
向けて最後の準備を進めていた。
その後、予定していた発売日を遅らせて
無事出荷することはできたけれど、
こんな状況の中で、ノートをカスタマイズしたり
ノートに何かを書いたりすることにどんな意味が
あるのだろうか、と考え悩んだ。
その時になんとか導き出した答えは、
それまでと同じように自分たちが心からワクワク
できるようなモノをとにかく真摯に作ることしか
僕らにはできないということだった。
そして、そんなワクワクに共感してくれる方に
誠実に向かい合うことこそ、僕らがささやかながらも
世界に前向きな変化を与えることができる方法で、
どんな時だろうが、僕らには結局それしかできない
ということを思い知った。

毎年、3月11日になると東日本大震災のことが
報道されるけど、震災の記憶とあわせて、
あの時、自分たちが作るモノの意味や意義について
思い悩んだことを思い出す。
10年という節目の年をコロナ禍の中で迎える
今年はよりそのことについて考えさせれたような
気がする。

東日本大震災から10年ということは、
15年前の3月に発売されたトラベラーズノートは、
同時にこの3月で15周年ということにもなる。
今まで、5周年、10周年のタイミングで
それぞれの周年をテーマにした商品をリリース
してきたけれど、今月発売する新しい商品には
その言葉を使わなかった。
そこには深い意味はないのだけど、
なんとなく15周年をテーマにするのは
安直なような気がして違うかな、と思ったのだ。
ただそうやって作ったB-Sides & Raritiesは、
思いがけずトラベラーズノートを最初に作った時
のような、まさにトラベラーズの王道をいく
やり方でできあがっていった。

ターゲットとかマーケティング戦略とかではなく、
自分たちが好きでワクワクできるという一点で
テーマを決め、想像力とともにその世界を深掘りし
広げていき、みんなの創意工夫とともにプロダクト
として作り上げていく。
それは15年前にトラベラーズノートを作った時に
発見したトラベラーズらしいものづくりのやり方だ。

この15年で、東日本大震災があったり、
スマホにSNSやサブスクリプションが生まれたり、
グローバリズム進むほどナショナリズムが強まり、
温暖化による気候変動も進み災害も増え、
さらに新型コロナウィルスが世界中を襲ったり、
AIやネットの力でそれらに対応しようとしていたり、
想像すらできない変化が現在進行形で進んでいる。
好むとも好まざるとも、それらの変化は
僕らの生活に大きな影響を与えているし、
自分の考え方を変える必要に迫られることも多い。
つまるところ僕らは、便利さと引き換えに
より多くのストレスを背負うようになった気がする。

だけど、人がワクワクしたり、感動したりする
ことの源流は変わらないと思っている。
僕は10代の頃聴いて心震わせたロックンロールに
50代になっても同じように心を震わせている。
10代の時はラジオやレコードで聴いていたのが、
今はスマホに入ったサブスクのアプリで聴くこと
もあるけれど、その変化に大きな意味はない。
だって、僕が感動しているのは、
ミュージシャンのリアルな声であり、
魂がこもったギターのチョーキングで、
心臓の鼓動のようなリズムで、さらにそれらが
バンっと一塊になって心に届くことで、
世界が変わったような気がしたロックンロール
そのものなのだ。

僕らはまず感動の源流に向き合うことを
なによりも大切にしていきたいと考えてきたし、
どんなにテクノロジーが進化しても、
流行り廃りが変わっても、僕らにとっての
感動の源流はなにも変わらない。

なんだかこんなことを言うと、
世の中の変化に抗う、あまのじゃくみたいだけど、
今この時代に、革のノートなんていうアナログの
極地みたいなものを、こんな風に思い入れをこめて
作り続けること自体が、時代や世の中に抗うこと
かもしれない。
最近、そんなことを思ったりもする。

そんな仕事を15年続けてこれたのは、
たくさんの思い入れとともにトラベラーズノートを
使ってくれている皆さまもおかげです。
心から感謝しています。ありがとうございます!


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2021年3月 8日

B-Sides & Rarities Vo.2

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先週のブログで書いた通り、
今月26日にリリースするB-Sides & Raritesは、
その成り立ちやコンセプト、使い方から、
それぞれのくせもの加減まで含めて、
とてもトラベラーズらしいコレクションに
なったと思っている。

トラベラーズらしいというのは、
いろいろな意味があるのだけど、
例えば、リフィル 耐洗紙のアイデアは、
公式サイトのプロフェッショナルユーザーに
登場していただいている土橋さんが、
クリーニング専門の紙を扱う会社の方を
紹介してくれたことから始まった、なんていうことも
トラベラーズ的だなあと思っている。

トラベラーズノートを介して人との出会いが広がり、
それがこのノートの世界を広げてくれるというのが、
トラベラーズのこれまでの一番の原動力だったし、
今回その起点となってくれたのが、
発売前に展示会のコンペでトラベラーズノートを
発見してくれて、それ以来ずっとお世話になっている
土橋さんだったのも、嬉しいことだった。

コットンジッパーケースもそうだった。
これはずっと作りたかった商品だったけれど、
メイドインジャパンにこだわりがあったため、
コストや生産キャパなどの面でハードルがあり、
なかなか実現できないでいた。
今回、それを解決できたのは、
ブラスプロダクトの一部を長年作り続けて
くれているMさんが、彼の友人でもある縫製工場の
方を紹介してくれたことがきっかけだった。

縫製の仕事は、ここ20年くらいコスト削減のため、
中国や東南アジアに生産地を次々と移管され、
今では日本には縫製工場がかなり少なくなっている。
そんな現状の中、あえて国内に小規模の工場を作り、
熟練の職人に教えを請いながら、若い職人を育て、
技術を継承しながら運営している工場に出会うこと
ができたのだ。

Mさんからその工場のことを聞いた時、
当然僕らは興味を持ったし、工場の方もMさんから
トラベラーズの成り立ちからものづくりの考えを
聞いていた上で出会う。
最初からお互いの考えややり方をある程度理解し、
そこに共感し、敬意を持った上で話を進められるのが
人とのつながりによって出会うことの良さだ。

先日、工場にお邪魔させてもらったのだけど、
7人しかいない小さな工場のスタッフのほとんどが
コットンジッパーケースの生産に携わってくれて、
それぞれの工程でのこだわりや職人たちの洗練された
技を見ることができて、とても感動した。
こんな出会いのストーリーもまたトラベラーズらしい
と思っている。

今回のリフィルのほとんどの生産を流山工場で
行っていることもトラベラーズの王道と言える。
さらに、それが一筋縄ではいかなくて苦労の連続で
あるのも、トラベラーズっぽいなあと思うのだ。

例えば、リフィル 便箋。
便箋は、昔から流山工場ではよく作られている
言うならば得意な製品でもある。
普通、便箋は天のりという製本方法で作る。
便箋の上部の側面に糊を引いて、
書いた後に一枚ずつ切り取れるようにする。
便箋の表紙は、通常裏の台紙の上部に貼り、
それを巻き込むようにしてできている。
トラベラーズの便箋は、革カバーにセットしたままで
表裏に書けるように、天のりを上部ではなくサイドに
縦につけて、表紙も横から開くようにしている。

昔からある便箋をトラベラーズノート用として
再構築することで、今までの便箋とは違った新しい
ものが生まれるという、まさにトラベラーズらしい
ものづくりの考え方で生まれた製品でもある。
だけど、そのことによって、
ものづくりの現場では今まで簡単にできたことが
途端に難しくなり、新しい工夫や作業が必要になる
ということがよくある。
通常の便箋であれば専用の機械で自動的に
行うことができる、表紙をつけて巻き込む作業を、
トラベラーズノート仕様の便箋では、
すべて手作業で行わないとならなくなった。
さらにその手作業を効率よく、正確できれいに
仕上げるための工夫も必要になる。

他にも、すべてのページを両面2色印刷する
リフィル メッセージカードは、印刷スピードが遅い
活版印刷の現場泣かせの製品だし、
リフィル 超軽量紙の紙は薄すぎるし、
シール台紙の紙はつるつるして滑るので、
普通のノート作りにはない工夫や面倒な作業が
生まれている。

今回のリフィルは、いざ生産がはじまると、
予定通りにいかない事態やさまざまなトラブルが
発生していて、それもトラベラーズらしい
ものづくりのパターンだと思わざるを得ない。
だけど、流山工場のスタッフはみんな、
それに苦言を呈することなく、実直に仕事を進め、
さまざまな工夫や思いもよらなかったアイデアで
困難を打開していってくれている。

新しいものを作るというのは、苦労の連続だし、
むしろそうやって余計に苦労したものほど、
愛着も深まるし、お客様の反応がいい場合も多い。
そういえばトラベラーズノートだってそうだ。
作り続けて15年も経つけど、いまだに苦労が
絶えない。

発売まであと2週間とちょっと。
晴れて発売日を迎えて、手に取った際には、
そんなものづくりの現場のことも想像して
いただけたら嬉しいです。


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2021年3月 1日

B-Sides & Rarities Vo.1

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まず、いくつかのリフィルの試作サンプルがあった。
トラベラーズノートの発売以来、
ちょっとした思いつきや、面白い紙との出会いが
あった時に作っておいたサンプルだ。
さらに途中で頓挫してしまった企画のために
温めていたリフィルのアイデアもあった。
同時にそれらは、定番リフィルのライアップを
追加検討する際に、いつも候補に上がるのに
落選し続けてきたサンプルやアイデアでもあった。

用途がニッチすぎたり、わかりにくかったり、
他のリフィルとのバランスだったり、
コストや生産上ちょっとした問題を抱えていたり、
そもそもそれってノートとは言えないんじゃないの? 
というようなことまで、定番になれなかった理由は、
さまざまだったけど、なぜか諦めきれず、
追加検討の時にはいつもドラフト対象選手のように
候補に上がりながら、結局指名を受けることは
なかった。

だけど、そんなドラフト外のようなリフィルを
まとめて並べてみると、今まで思いもよらなかった
トラベラーズノートの使い方を教えてくれそうだし、
映画『がんばれ!ベアーズ』のような個性派の
落ちこぼれ集団が放つオーラみたいなものを感じた。

野球だったらドカベンに例えてもいいかもしれない。
悪球はホームランにするけどストライクゾーンは
空振りする岩鬼に、最高のバッティングセンスを
持ちながら鈍足の山田、エースなのに肩が弱い里中、
ピアノと野球を掛け持ちしてどっちつかずの殿馬、
主要キャラクターなのにほとんど活躍しない微笑。
そんなわかりやすい欠点と長所があるがゆえに
魅力的な明訓高校野球部のメンバーのような輝きを、
並んだリフィルのサンプルから感じたのだ。
(ドカベン プロ野球編では、みんなちゃんと
ドラフト指名されているけれど)

さらに「だったらこんなリフィルもいいかも」と、
新しいリフィルのアイデアもでてきた。
「よし、次はこれでいこう」
先週公式サイトにアップしたトラベラーズノートの
新しいラインアップはこんな風にして決まった。

タイトルの「B-Sides & Rarities」は、
完全に後付けで考えたものだった。
だけど今回のラインアップが生まれる成り立ちを
端的に表していると思うし、
このタイトルであれば、今回のリフィルの中に
ノートとしての本筋を外しているものや、
実験的なものがあることもちゃんと筋が通るし、
ポジティブに捉えられるようになった。

なにより、トラベラーズノート自体が、
シングルのB面のように余計なことを気にせず
個人的な表現を実験できる場であるし、
B面によくある憧れの曲をカバーするように、
自分の好きなものを描いたりする場でもある。
表通りよりも路地裏にシンパシーを抱き、
メジャーよりもインディーズでありたいと願う
トラベラーズノートにぴったりだと思った。
それになんといっても、このタイトルだったら
大好きなロックやレコードの要素をプロダクトに
盛り込むことができる。
旅とロックなんて最高じゃないか。
(さんざん野球に例えていたけれど、野球より
ロックの方が好きなのです)

タイトルが決まると、早速橋本がレコード盤を
模したかっこいいロゴをデザインした。
さらに「パッケージにはレコードの国内盤みたい
な帯をつけようと思う」とか、
「表紙はアルバムのジャケットみたいにしたいね」
と言いながらデザインのイメージが広がっていった。

表紙のイラストには、さりげなく僕の個人的な
ロック愛を盛り込んだ。
こんなことを説明するのは野暮かもしれないけど、
リフィル耐洗紙はソニック・ユースの
『ウォッシング・マシーン』、シール台紙は
『ベルベット・アンダーグラウンド&ニコ』、
ジャバラはピストルズの『勝手にしやがれ』、
メッセージカードはピンクフロイド『原子心母』へ
のオマージュとして描いた。
どれも音楽はもちろんジャケットのアートワークも
素晴らしい昔から大好きなアルバムだ。

例えば『ベルベットアンダーグラウンド&ニコ』は、
手に入れた時、シンプルでインパクトがあって、
前衛的で実験的で妖しくエッチでありながら、
ポップで知性と品があり、バンドが持つイメージを
端的に表す最高のジャケットだと思った。
このアルバムから、彼らの音楽はもちろん、
ジャケットをデザインしたアンディウォーホール
にも興味を持ち、モダンアートの世界への扉を
開けるきっかけにもなった。
手元のCDのジャケットは、35年経ってすっかり
色あせてバナナの色は黄色からほとんど白に変わって
しまったけれど、その月日の分だけ影響も受けたし、
思い出もたくさん詰まっている。

『勝手にしやがれ』は、高校生だった僕に
パンクロックを衝撃とともに教えてくれたアルバム。
いまだに「ノーフューチャー」と口ずさみながら
このアルバムを聴いて、心を奮い立たせる時もある。
『ウォッシング・マシーン』も『原子心母』も
個人的な影響も思い入れがたっぷりある大切な
アルバムだ。
僕の価値観を作り、辛い時を救ってくれたこれら
のアルバムへのオマージュをトラベラーズノートの
ラインアップに盛り込めただけでも大満足だった。

サンプルができあがり、レギュラーサイズと
パスポートサイズが並んだ姿を見た時は、
レコードとCDが並んでいるみたいだと思った。
これらのリフィルに、みなさんの記憶が刻まれ、
それぞれの生活に中で生まれる新たな実験や、
好きなことが記されていったら嬉しいです。

そんなわけで、B-Sides & Rarites コレクションは、
現在、流山工場を中心に鋭意生産中です。
このリフィルたちは、工場にとってもなかなか
くせもの揃いが多く、みんな苦労をしています。
その話はまた後日。


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店長のプロフィール

(株)デザインフィルでトラベラーズノートの企画を担当している飯島です。