« 新春イベント | メイン | B面に恋をして »

ノートをカスタマイズするということ

20210119e.jpg


こんなことを言ったら怒られてしまいそう
だけど、僕が大学を卒業して今の会社に
入ることになった動機は不純だった。
最初のきっかけは、たまたま家の近くにある
ということだけで、会社案内をパラパラめくって
見つけた名前も知らない会社の説明会に行って
みようと思ったことだった。
会社を訪ねると、なんとなく雰囲気が
良さそうだったので、そのまま面接を受けた。
すると、早い時期に内定が決まったため、
その後就職活動をする気がなくなってしまい
あっさり就職を決めてしまったのだ。
当時はバブル最盛期だったので、内定の
ハードルは今よりずっと低かった。
もちろん就職活動をする上で、何も考えて
いなかったわけではないんだけど、
なんとなく興味があった出版社は
敷居が高くて入れる気がしなかったし、
好きだった音楽関連の会社は、好き過ぎて
仕事にしないほうがいいかなと思った。
文房具に特別な思い入れはなかったけれど、
もともと何かを書くことは好きだったし、
身近な日常の道具だから仕事もイメージし
やすかったのかもしれない。
ぼんやりだけど、旅が好きだったから海外と
関わる仕事がしたいということと、
ものづくりに関わる仕事をしたいという希望は
あったけど、英語がうまく話せるわけでもないし、
デザインや商品企画の専門的な勉強をしていた
わけでもない。
だけど、この会社だったらもしかしたら、
そういうことができそうな気がした。
(今思えば勘違いも甚だしいのだけど、
若気の至りというやつですね)

文房具というモノを特別に意識するように
なったのは、会社に入ってからだった。
最初は営業部に配属された。
営業の仕事で享受できる数少ない特権のひとつが、
営業用のサンプルとして、自社製品をある程度
自由に使うことができることだった。
ただ、なんとなくそのまま使うのがいやで、
シャープペンのペン先、キャップ、ボディーを
付け替えて、全部違う色にしてみたり、
ボールペンの塗装を紙やすりで削ってはがして、
無垢の金属面を見えるようにして使っていた。
(営業サンプルとしては間違った使い方ですね)
自由に使えるという状況だったから
気軽にそんなことができたのかもしれない。
そうやってノートやペンが持つ魅力と同時に
それらをカスタマイズする楽しみを知った。

営業の仕事を何年か経験したのちに
幸運にも海外と関わる仕事や
ものづくりの仕事に携わることができた。
そしてトラベラーズノートが生まれた。

トラベラーズノートのファーストサンプルが
できた時、まずはそれをカスタマイズしながら
使ってみたのは、必然的な流れだった。
シールになっているカードポケットを
革カバーの内側に貼ったり、
タイのマーケットで見つけたビーズを
ゴムに付けたりしながら、カスタマイズの
楽しさに気づいていった。

トラベラーズノートという名前にしたのは、
もともと好きだった旅をテーマにすることで
いろいろ遊べると思ったからだし、
チェンマイの工房で作ることにこだわったのは
これでチェンマイに行く理由が作れると思った
からで、やっぱり不純な動機だった。

旅をテーマにしたことで、
かつての旅をもう一度振り返えろうと、
引き出しの奥にしまってあった、学生時代の
旅の思い出をひっぱり出してみた。
旅日記が書かれたメモ帳に、旅先で手に入れた
チケットやタバコの包み紙、レシートなど、
すっかり黄ばんでいるそれらの紙を見ていたら
ふと、ノートの表紙に貼ってみようと思った。
イメージは、旅の達人が持っているような、
ホテルやエアラインのステッカーがペタペタと
貼られたスーツケースだった。
できあがったノートを手にしてみると、
それだけで旅の高揚感が鮮やかに蘇り、
日々使うことで旅するような気分で過ごせる
ような気がした。

そんなことをしながら、
カスタマイズすることの意味が深まっていき、
トラベラーズノートにとって大事なコンセプト
になっていった。
そして、トラベラーズノート本体は、
できる限り機能を削ぎ落としシンプルにして、
使い手が自由にいじれる余白を残すようにした。
足りないものは、その分リフィルを用意することで
補っていった。

トラベラーズノートは不完全で未完成のノートだ。
そっけないくらい無骨で無垢な革のノートを
使い手がカスタマイズすることによって、
それぞれの人にとっての理想的なノートになる。

15年前の発売当時、例えばビジネス用の手帳や
システム手帳では、豊富なリフィルを用意して、
カスタマイズできるようなものはあった。
だけど、トラベラーズノートのカスタマイズが
フィーチャーしたかったのは、機能はもちろん
だけどそれ以上に孤独に寄り添った、
親密で個人的な記憶や感情だった。

表紙に、旅の思い出となるようなチケットや
自分の好きなバンドのステッカーを貼ることは、
ノートの機能には特に影響を与えないけれど、
使う心持ちに前向きな変化をもたらせてくれる。
それと同時に、ノート自体が自分自身を反映する
鏡のような存在になってくる。
そんな一見すると無駄とも言えるエモーショナル
なカスタマイズを強く提唱するようなノートは
当時は(今も?)なかったと思う。

トラベラーズノートが不完全で未完成であるのと
同じように、僕らもまた不完全で未完成な存在だ。
日々、不安や失敗ばかりで、理想通りにいかない
ことはたくさんある。
それでも、さまざまな人との出会いや、
カルチャーやアート、環境の変化などの影響を
受けながら、より良き世界を求めて旅するように
毎日を過ごしていく。
僕ら自身が、触れてきた音楽や本、旅の思い出や
出会った人たちの言葉なんかを、ステッカー
みたいに心の内側に貼り付けて、
日々カスタマイズを重ねながら生きているの
かもしれない。

完璧な人間なんてどこにも存在しないように、
トラベラーズノートのカスタマイズも終わる
ことがなく永遠に続いていく。
僕はトラベラーズノートのそんな不完全な
ところと、それでも理想に向かって旅を
続けようと促してくれる前向きなところが
好きだ。

先週末、新春イベントということで、
久しぶりに1日トラベラーズファクトリーにいて
お客様とゆっくり話すことができた。
今回はコロナ禍の影響もあり、いつもとは違う
形で、まさにカスタマイズしての開催となった。
そんな中でも人と会い話をすることの意味とか
大切さを実感できたのも嬉しかった。
これからどうなっていくのか、分からないことも
たくさんあるけど、トラベラーズらしく
カスタマイズしながら、できることを模索して、
楽しいことをやっていきたいと思います。
よろしくおねがいします。


20210112b.jpg

20200112c.jpg

20210112aa.jpg

コメント (3)

tojo:

iijimaさんのこのトラベラーズ日記を読んでいると、こうしてコメントを書きたくなる衝動が度々あります。

これって自分の中で、トラベラーズノートの中身を、ノートだけ同じで、他のリフィルを毎日入れ替えたりして、その時々のやりたい事、衝動に従う行為に似てる・・・そう思いました。

私にとってもトラベラーズノートはいつだって不完全で、「もっと何か出来るんじゃないか、もっと良い使い方があるんじゃないか・・・」なんてノートに描くのそっちのけでいじり倒したりしています。

もちろんノートとしても、ブレインダンプとか、そんな言葉には程遠いような思い付き、気持ちを何となく書き込んだりとか、脈略もない線を引いてみたりとか・・・トラベラーズノートを日々楽しませていただいております。

そしてそんな日々を繰り返していると、革も日に日に表情が変わっていく。
見た目だけじゃなくて触り心地も変わって、トラベラーズノートも変化していく。

日々考えが変わって、日々答えのない答えを探している私にとって、トラベラーズノートは本当によきパートナーです。

コロナ禍で昨年はトラベラーズファクトリーに全然行く事が出来ませんでしたが、今年はまた気軽に足を運べるようになれたら・・・と思いながら、それをトラベラーズノートに綴らせていきます。

また何の脈略もないコメントをしてしまい申し訳ございません!
けど、こういった衝動が大切なんだと自分を肯定して投稿させていただきました笑

またよろしくお願い致します!

Hide:

システム手帳はリフィルのチョイスは豊富でしたが使い方に自由がなかったですよね。トラベラーズノートは適当に放っておいてくれるところがいいです。ゴムの締め具合も好きなように調整できますしね。システム手帳は窮屈なネクタイのようでもう戻れません(苦笑)。

iijima:

tojoさん、コメントありがとうございます。この日記自体が脈絡もないのでお気軽にコメントいただければと思います(笑)。
頭の中と一緒でトラベラーズノートも日々変化していくのが魅力です。ぜひ永くお使いいただけると嬉しいです。コロナが落ち着いたらぜひトラベラーズファクトリーにも遊びに来てください。

Hideさん、ありがとうございます。
システム手帳は私も使ったことがあります。あれはあれで良さがあるとは思いますが、トラベラーズノートは放っておいてくれる・・・というのは言い得て妙ですね(笑)。

コメントを投稿

2021年1月

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

アーカイブ

店長のプロフィール

(株)デザインフィルでトラベラーズノートの企画を担当している飯島です。