つかう人の話

ウルバノヴィチ 香苗さん

イラストレーター

――イラストレーターになったきっかけをお教えいただけますか?

実は、初めはウェブデザインを生業にしようと考えていたんです。元々、絵を描くことが好きだったんですが、それだけを仕事にすることは難しいと周りに言われ、何か武器を身に着けようとウェブデザインを学べる学校に進学しました。でも、当時よく使われていたAdobe Flashなどでアニメーションを作るようになり、その作品がきっかけで最初に入った会社に就職できたんです。結果的に、タグを打つようなことではなく、本当にやりたかった絵が仕事になり、それが今でも続いています。

――デジタルに馴染みがあるのに、現在のメインは紙と鉛筆を使った手書きですよね。

私が扱いはじめた頃のインターネットって、デジタルと言いつつ、アナログ的な工夫が必要で、今よりももう少しそばにある感覚があったんです。ウェブ上に絵をアップするとしても、紙に描いていたものでしたし。その体験があったので、紙と鉛筆に立ち戻ってしまうんだと思います。

――絵を描く際の最も重要なポイントを教えてください。

ラフを描いて、それを元に本番に移るというのが基本なのですが、私にとってはラフが最も重要です。まずは何も見ずに、頭の中と相談をしながらイメージや構図を決めていきます。何かを見ながらだとディテールに偏り、余計な部分にこだわってしまい、どうしても硬くなるので、柔らかな頭の状態からポージングや動き、表情などをもっていきたいんです。

――ライブ感がとても重要だということですね。

頭の中のものを念写できたら良いんですけどね(笑)。なるべくラフの段階で手を止めたくないんです。細かな部分を考え始めてしまうと、イメージがどんどん薄れていってしまう。ちなみに漫画の場合、1ページあたりおおよそ2時間かけて集中してラフを描くんです。それに対して、本番のペン入れは5~10分くらい。先ほどの話と同じように本番に時間をかけると、形に集中してしまってタッチが硬くなりがち。できるだけ自然であることにこだわりたいんです。

――紙の描き心地の良さも必要になってきますか?

そうですね。1年半ほど前、夫が『MDノート』を文房具店で見つけてきて、私も使えるかもと使いはじめたら、とても相性が良かった。本番を描くには薄いけれども、その気軽さがラフにちょうど良いんです。また、以前はシャープペンで描くことが多かったのですが、『MDノート』だと鉛筆の方がよくすべるような気がするんです。それから鉛筆をよく使うようになりましたね。その方が柔らかい表現ができますし、頭からアウトプットするまでがツルっと出てくる感じ。描く際のシャカシャカという筆跡から出る音も心地良いBGMになってくれています。

今、主に使っているものはあまり大きくないサイズのもの。大きい紙に描いてしまうと細かな部分まで描けてしまうので、そうすると、もう少しこうした方が良いかなというアイデアが出てきてしまう。すると、繰り返しですが、頭の中のイメージが消えてしまい、最初に描いたものがもったいなくなって捨てられなくなる。どんどん描いていって、アイデアを次々と試していく方が私の性に合っているんです。

でも、だからと言って、コピー用紙でも良いかといったらそうでもなくて、自分で好きと思える道具に描くという心持ちも大切。クリーム色なのも好きなポイントですね。目に優しい気がして(笑)。そういった気持ちが描くものにちゃんと反映されるんです。

――最後に、今後の展望などがありましたらお教え下さい。

いろいろとあるんですけれども、今、漫画を自分でやってはいますが、もっとストーリー性のあるものにトライをしてみたいですね。私は世界観を突き詰めて考えることが好きで、考えを巡らせることがあるんです。そうすると、短編よりも長編、ちょっとした暇つぶしに読んだり、見たりするものではなく、誰かの脳みその栄養になるものをつくりたいという想いが募ってきます。ただ、あくまで読んでいて楽しいものを。いずれは、そういった何かの役に立つ、糧になるものを生み出したいです。

ウルバノヴィチ 香苗

イラストレーション、アニメーション、漫画などを用いているクリエイター。デザイン会社で10年間勤務後、フリーランスへ転向。絵本や書籍の装画、アニメーションステッカー、キャラクターデザインなどを手掛ける他、オリジナル作品も多数発表しています。

http://kanaurbanowicz.com/

マテウシュ・ウルバノヴィチ

ポーランド出身のフリーランスクリエイター。 絵画、イラスト、アニメーション、コミック、動画など多岐に渡り手がけています。
現在は日本の東京都で妻の香苗さんと一緒に活動中。

マテウシュさんには、本サイトのトップページで使用している「描く」のコンセプト動画作成にご協力いただきました。

https://mateuszurbanowicz.com/


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