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Saturday Night Traveler

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まだ20代で営業の仕事をしていた頃、
シイバさんという上司がいた。
歳がひとまわり以上離れた大先輩であるにも
かかわらず、尊大なところがなく、
若かった僕らにも、親しみとともに優しく
接してくれる人だった。

なぜかトラブルを引き寄せてしまうような
ところがあって、本人に落ち度はないのに
生産上のトラブルで納期が遅れたり、
クレームが入ったりして、「まいったなあ」と
口癖のように呟きながら、いつもバタバタと
慌てているような人でもあった。

部下である僕らが仕事でミスをした時も、
率先してお客や上司のところまで付いてきて頭を
下げながら、盾のように叱責を受け止めてくれた。
その夜にお酒を飲みながら、叱るわけでもなく
「まいったなあ」と一緒に頭を抱えてくれた。
ちょっと不器用だけど、僕らにとっては
まさに愛される先輩といった存在だった。

そんなシイバさんが、学生時代にはアメリカ文化に
憧れ、ESSに所属していたということを知ったのは、
僕がシイバさんのいる営業から異動した後だった。
彼の若い頃を知る別の先輩が教えてくれたのだ。
(ESSは、English Speaking Societyの略で
英会話をするサークル。海外との距離が近くなった
昨今、まだそういったサークルがあるのだろうか)

シイバさんが学生時代を過ごしたのは70年代後半。
その時代のアメリカの映画や音楽にも興味があった
僕は、一緒に仕事をしていた頃にそんな話を全く
しなかったことを少しだけ後悔した。
さらに、シイバさんは当時はディスコ通いを
していたようで、その時代にヒットした映画
「サタデー・ナイト・フィーバー」をもじって、
サタデー・ナイト・シイバーと呼ばれていたと
いうことも、その先輩は教えてくれた。

サタデー・ナイト・シイバーという語呂の良さと、
その人柄とのギャップに思わず吹き出してしまった
けれど、僕はますますシイバさんが好きになった。

なんでそんなことを思い出したかと言うと、
映画「サタデー・ナイト・フィーバー」を見たから。

最近、映画のサントラをよく聴いていることは
ここで何度も書いているけど、サントラといえば
「サタデー・ナイト・フィーバー」は最も有名な
アルバムのひとつでもある。
ただ、ディスコ映画のサントラということで
なんとなく敬遠していて、今までちゃんと聴いた
ことがなかった。だけど、あらためて聴いてみたら、
なかなかかっこいい。その流れで映画も観てみた。

「サタデー・ナイト・フィーバー」と言えば、
映画を見たことがなくても、ミラーボールを
バックにした若きジョン・トラボルタの
決めのポーズは見たことがあると思うけど、
あのビジュアルから感じるのは、やっぱり、
ディスコのヒーローが主人公のチャラチャラした
軽い恋愛映画なんだろうな、というイメージで、
ディスコにもダンスにも特別興味がない僕は、
これまで観たいと思ったことがなかった。
だけど実際に観てみると、決して軽くはなく、
全体に流れるトーンはむしろ重苦しい。
想像とは違ってビターな味付けの映画だった。

舞台はブルックリン。
ジョン・トラボルタ演じる主人公はペンキ屋で
働きながら、土曜日に仲間とディスコに行って
踊るのを生きがいにしている。
そこで出会ったダンスの上手い女の子を口説いて、
一緒にダンスコンテストに出ることになる。
ストーリーだけ書くと、やっぱりチャラチャラした
娯楽映画って感じなんだけど、娯楽映画らしい
スカッとした気持ち良さも甘美なシーンもない。
そんなシーンになりそうな雰囲気になっても、
展開はねじれて、不協和音を奏でるように物語は
不穏な方向へ進んでいく。
そして、それが深みとともにメッセージ性や
味わいを感じさせてくれるのだ。

また、映画の中で当時のブルックリンの風景を
見ることができたのも興味深かった。
冒頭のシーンでは、
ビージーズの「ステイン・アライブ」が流れる中、
ジョン・トラボルタがペンキ缶を手にブルックリン
の街を軽快なステップで歩いていく。
ショーウィンドウで素敵なシャツを見つけるのは、
昔は東京にもあった個人経営の街のテーラーショップ
といった佇まいの店で、彼が勤めるペンキ屋は
まさに昔ながらのゼネラル・ストアの雰囲気。
みんなで乗り回すボロボロのシボレーもかっこいい。
ブルックリンとマンハッタンを繋ぐ橋が象徴的に
描かれていて、華やかなマンハッタンに対し、
当時のブルックリンが浮かばれない貧困層が住む街
であったことを暗に伝えている。

「サタデー・ナイト・フィーバー」の
ジョン・トラボルタは、ダンスが上手く熱血だけど
純粋すぎて単純がゆえに不器用に生きる若者として
描かれている。
それを知ってから「パルプ・フィクション」を観ると、
そこでのジョン・トラボルタはそのまま成長して大人
になった姿に思えるのも面白い。

「サタデー・ナイト・トラベラー」という
タイトルの映画があったらどんな映画になるの
だろう。ふと、そんなことを思った。
舞台は70年代の東京、トラベラーズノートを
片手に街を歩く主人公を想像してみたら、
またシイバさんのことを思い出した。
ミラーボールじゃなくて、光る地球儀をバックに
決めのポーズをしてほしいな。


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(株)デザインフィルでトラベラーズノートの企画を担当している飯島です。